上槽 (じょうそう) とは、発酵を終えた醪 (もろみ) を搾り、液体の清酒と固形の酒粕に分ける工程です。蔵では「搾り」とも呼びます。酒税法では醪を「こす」ことが清酒の要件なので、法律上はこの工程を経て初めて日本酒 (清酒) になります。搾り方には槽搾り (ふなしぼり)、自動圧搾機 (ヤブタ式)、袋吊り、遠心分離などがあり、どの方法で、搾りのどの部分を取ったかが、ラベルの「あらばしり」「中取り」「袋吊り」「斗瓶囲い」といった言葉になっています。

麹が糖を作り、酒母が酵母を育て、醪で発酵が進む。その成果を酒として取り出すのが上槽で、ここで味の最終的な輪郭が決まります。この記事では、上槽の役割、4 つの搾り方の違い、搾りの前半・中盤・後半で味がどう変わるか、搾ったあとの滓引き・濾過との関係、酒粕のことまでを順に整理します。

上槽の位置づけ: 醪の次、火入れの前

工程内容
醪3〜5 週間の本発酵。杜氏が搾る日を決める → 醪とは?
上槽 (本記事)醪を搾り、清酒と酒粕に分ける
滓引き (おりびき)搾った酒を数日置き、沈んだ滓 (おり) と澄んだ酒を分ける
濾過活性炭や濾紙で色・雑味を取る。行わないのが「無濾過」
火入れ・貯蔵加熱して安定させ、熟成させる → 火入れとは?

なぜ搾るのか: 「こす」⁠ことが清酒の定義

発酵を終えた醪は、溶け残った米と麹、酵母が混ざったどろりとした液体です。酒税法上、清酒は「米、米麹、水を原料として発酵させ、こしたもの」と定義されており、醪をこさずそのまま飲むものは「どぶろく」(その他の醸造酒) になります。粗い布で固形分を残しながらこしたものが「にごり酒」で、こしている以上は清酒です。つまり上槽は、味を整える工程であると同時に、日本酒を日本酒にする法律上の節目でもあります。

4 つの搾り方

方法仕組み所要時間の目安特徴使われる場面
槽搾り (ふなしぼり)醪を酒袋に詰め、「槽 (ふね)」と呼ばれる箱に積み、上から圧力をかける2〜3 日圧力が穏やかで雑味が少なく、柔らかな口当たり。手間と人手がかかる純米酒〜大吟醸。伝統を重視する蔵
自動圧搾機 (ヤブタ式)アコーディオン状に並んだ板の間に醪を送り、空気袋で圧搾する半日〜1 日効率的で安定、搾り切れる。酒粕は板状の「板粕」になる現在の主流。普通酒から吟醸まで
袋吊り (ふくろづり)酒袋に醪を入れて吊るし、圧力をかけず自然に滴る酒だけを集める1〜2 日最も雑味が少なく繊細。収量が少なく高価大吟醸、鑑評会出品酒。「雫酒 (しずくざけ)」「斗瓶囲い」
遠心分離遠心力で液体と固形分を分ける短時間圧力も布も使わないため、香りが逃げにくいとされる。設備が高価一部の蔵の上位酒 (獺祭が公表している例など)

槽搾り ⁠(ふなしぼり)

舟の形をした箱 (槽) に、醪を詰めた酒袋を何十枚も積み重ね、はじめは袋自身の重みで、やがて上から蓋をして圧力をかけて搾ります。圧力の立ち上がりが緩やかなため雑味が出にくく、柔らかな味わいになるとされますが、袋詰めと積み替えに人手と時間がかかります。ラベルの「槽搾り」「槽場 (ふなば) 直汲み」はこの方法です。

自動圧搾機 ⁠(ヤブタ式)

1960 年代に実用化された連続式の圧搾機で、藪田産業の製品名から「ヤブタ」と呼ばれます。濾布を張った板が何十枚も並び、その間に醪を送り込んで空気袋で加圧します。密閉された状態で酸化しにくく、短時間で均一に搾り切れるため、現在ほとんどの蔵で主力になっています。搾ったあとに板状に残る酒粕が、スーパーで見る「板粕」です。

袋吊り ⁠(ふくろづり)⁠ と斗瓶囲い

酒袋に醪を入れて吊るし、圧力をかけずに自然に滴る酒だけを集める方法です。滴る酒は「雫酒」と呼ばれ、18 リットル入りの「斗瓶 (とびん)」に受けることから「斗瓶取り」「斗瓶囲い」とも言います。収量は醪の一部にとどまり、同じ醪でも袋吊りの部分だけを高価な商品として出す蔵が多いです。全国新酒鑑評会の出品酒で広く使われてきた方法です。

遠心分離

醪を高速回転させ、遠心力で液体と固形分を分けます。布を通さず圧力もかけないため、香り成分が逃げにくく、酵母や米の細胞を壊さないとされます。装置が高価で処理量も限られるため採用する蔵は少なく、山口県の旭酒造 (獺祭) が遠心分離の商品を公表している例が知られています。

搾りの順番で味が変わる: あらばしり・中取り・責め

同じ醪でも、搾りの前半・中盤・後半で出てくる酒の性格は違います。

区分いつ出る酒か特徴ラベルの言葉
あらばしり (荒走り)圧力をかける前、袋の重みで最初に出る炭酸ガスを含み、やや白く濁る。フレッシュで荒々しく、香りが立つ「あらばしり」「荒走り」
中取り (なかどり)圧力をかけ始めてから中盤最も澄んでバランスが良い。香り・味・雑味の少なさが揃う「中取り」「中汲み」「中垂れ」
責め (せめ)最後に強い圧力で搾り切る部分濃く、雑味や渋みも出る。単独では重いが、ブレンドで味に幅を与える単独で商品化されることは少ない

多くの商品は三つを合わせて一つの酒にしますが、「あらばしり」「中取り」と書かれた酒は、その部分だけを瓶詰めしたものです。同じ銘柄の両方を飲み比べると、搾りの順番で味がどう変わるかがはっきり分かります。

搾ったあとに続く工程と「無濾過生原酒」

搾ってすぐの酒には、まだ微細な滓 (おり) が漂っています。数日置いて滓を沈め、上の澄んだ部分を取るのが「滓引き」。さらに活性炭や濾紙で色や雑味を取るのが「濾過」です。ここで何を省くかが、ラベルの言葉になります。

言葉意味
無濾過活性炭などの濾過をしていない。色がやや濃く、味が丸ごと残る
生 (生酒)火入れをしていない → 生酒とは?
原酒加水していない → 原酒とは?
無濾過生原酒上の三つを全部省いた酒。搾ったままに最も近い
直汲み (じかぐみ)搾り機から出てきた酒をそのまま瓶に詰めたもの。微発泡が残ることが多い
おりがらみ滓引きをせず、滓を少し残して瓶詰めしたもの。うす濁り

酒粕と粕歩合

搾って残った固形分が酒粕です。醪に使った白米の重さに対して何 % の酒粕が出たかを「粕歩合」と言い、普通酒では 25% 前後、吟醸酒では 35〜50% と高くなるとされます。吟醸酒は米を溶かし切らない設計なので、粕が多く残るのです。酒粕には米のたんぱく質、酵母、少量のアルコールが残っており、甘酒・粕汁・漬け床として使われます。板状の「板粕」はヤブタ式、ほろほろとした「ばら粕」や練った「練り粕」は槽搾りや再加工のものです。

酒蔵見学で上槽を見るなら

  • 時期: 上槽は醪の発酵が終わる時期なので、寒造りの蔵では 12 月〜3 月が中心です。酒造期の見学を予約すると搾りの日に当たることがあります。
  • 匂い: 搾りの日の蔵は、搾り機の周りに吟醸香が充満します。「槽場の香り」と呼ばれる、酒好きには格別の体験です。
  • 直汲み: 蔵の売店で「槽場直汲み」「しぼりたて」が出ているのはこの時期だけです。→ 新酒とは?

こんな人におすすめ

  • ラベルの「中取り」「あらばしり」「袋吊り」「斗瓶囲い」「直汲み」の意味を確かめたい人
  • 「無濾過生原酒」がどの工程を省いた酒なのかを整理したい人
  • 酒蔵見学で搾りの説明を聞く前に、槽とヤブタの違いを知っておきたい人

よくある質問

上槽とは何ですか?

発酵を終えた醪を搾り、清酒と酒粕に分ける工程です。酒税法上、醪を「こす」ことが清酒の要件なので、この工程で初めて法律上の日本酒になります。

袋吊りとは何ですか?

醪を酒袋に入れて吊るし、圧力をかけずに自然に滴る酒だけを集める搾り方です。雫酒・斗瓶囲いとも呼ばれ、大吟醸や鑑評会出品酒に使われます。

ヤブタ式とは何ですか?

現在主流の自動圧搾機です。濾布を張った板の間に醪を送り、空気袋で圧搾します。短時間で安定して搾れ、酒粕は板粕になります。

あらばしりと中取りの違いは?

あらばしりは圧力をかける前に最初に出る、炭酸を含んだフレッシュで荒々しい酒。中取りはその後の中盤に出る、最も澄んでバランスの良い部分です。

酒粕はどうなりますか?

搾って残った固形分で、甘酒や粕汁、漬け床などに使われます。吟醸酒ほど米を溶かし切らないため、酒粕の割合 (粕歩合) は高くなります。

出典・参考

  • 国税庁「酒のしおり」「酒税法 (清酒の定義)」
  • 日本酒造組合中央会「日本酒の基礎知識」
  • 独立行政法人 酒類総合研究所「清酒製造技術」関連資料

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要点まとめ

上槽は、醪を搾って清酒と酒粕に分ける工程であり、法律上も「こす」ことで初めて清酒になる節目です。槽搾り・ヤブタ式・袋吊り・遠心分離という方法の違い、あらばしり・中取り・責めという搾りの順番の違いが、口当たりと香りの輪郭を決めます。ラベルの「中取り」「袋吊り」「無濾過生原酒」「直汲み」は、すべてこの工程とその直後に何をしたか (しなかったか) を示す言葉です。