醪 (もろみ) とは、酒母に麹・蒸米・仕込み水を加えて発酵させている状態、つまり日本酒の本発酵そのものです。原料は「三段仕込み」と呼ばれる方法で 4 日かけて 3 回に分けて加えられ、その後およそ 3〜5 週間、麹の糖化と酵母のアルコール発酵が同じタンクの中で同時に進みます (並行複発酵)。発酵を終えた醪を搾ると清酒と酒粕に分かれます。

酒造りの工程で「日本酒が生まれる場所」を一つ挙げるなら醪です。香り、酸、甘辛、アルコール度数、そのほとんどが醪の中で決まり、杜氏は毎日タンクを覗き、泡の様子と分析値を見ながら温度を上げ下げして狙いの味へ導きます。この記事では、三段仕込みの意味、発酵の進み方と泡の変化、期間と温度、杜氏が何を見て上槽を決めるのかを順に整理します。

醪の位置づけ: 酒母の次、上槽の前

工程内容
酒母酵母を大量に増やしたスターター → 酒母とは?
醪 (本記事)酒母に麹・蒸米・水を三段に加え、3〜5 週間発酵させる
上槽醪を搾って清酒と酒粕に分ける → 上槽とは?
滓引き・濾過・火入れ・貯蔵搾った酒を澄ませ、加熱して安定させ、熟成させる → 火入れとは?

三段仕込みとは: 4 日で 3 回に分けて仕込む

酒母はタンクの底にわずかしかありません。そこへ総米の 9 割以上の原料を一度に入れると、酵母も乳酸も薄まって雑菌に負ける危険があります。そこで原料を 3 回に分け、酵母が増えるのを待ちながら段階的に量を増やしていくのが三段仕込みです。

日段内容加える米の割合 (目安)
1 日目初添 (はつぞえ)・添 (そえ)酒母に最初の麹・蒸米・水を加える全体の 2 割弱
2 日目踊り (おどり)何も加えず 1 日置き、酵母が増えるのを待つなし
3 日目仲添 (なかぞえ)初添のおよそ 2 倍の量を加える全体の 3 割前後
4 日目留添 (とめぞえ)残りすべてを加える。ここから「醪」と呼ぶ全体の 5 割前後

添・仲・留の米の比率は蔵や酒質により変わりますが、おおよそ 1 : 2 : 4 で倍々に増やしていくのが基本形です。各段で仕込む温度は、添が 12℃前後、仲・留と段を進めるごとに下げていくのが一般的で、吟醸酒の留添では 6〜8℃程度まで下げます。発酵を終えたあとに甘みを足す目的で蒸米や麹を 4 回目に加える「四段仕込み」という技法もあります。

醪の中で起きていること: 並行複発酵

留添のあと、醪の中では麹の酵素が蒸米のでんぷんを糖に変え (糖化)、酵母がその糖をアルコールと炭酸ガスに変える (発酵) 作業が同時に進みます。糖が作られるのと消費されるのが並行するため、糖が溜まりすぎて酵母が弱ることがなく、醸造酒としては世界で最も高い 18〜20% 前後のアルコールまで発酵が進みます。仕組みの詳細は 並行複発酵とは? にまとめています。

杜氏は毎日、醪の「ボーメ (糖の濃度)」「アルコール分」「酸度」「温度」を測り、糖化と発酵のどちらが先行しているかを見ます。糖化が速すぎれば温度を下げて酵母を抑え、発酵が遅ければ少し温度を上げる、といった調整を日々繰り返します。

泡で読む発酵の進み方

伝統的な泡あり酵母の醪では、表面の泡の姿が発酵の段階を教えてくれます。蔵人はこの泡の名前で醪の状態を呼んできました。

段階泡の名前状態
留添から 2〜3 日筋泡 (すじあわ)表面に細い筋のような泡が走る。発酵の始まり
4〜5 日水泡 (みずあわ)白く軽い泡が広がる
6〜7 日岩泡 (いわあわ)泡が盛り上がり、岩のように固まる
7〜10 日高泡 (たかあわ)泡が最も高く盛り上がる。発酵の最盛期で、タンクからあふれないよう泡消し機を回す
10〜14 日落泡 (おちあわ)泡が崩れて低くなる
2 週間以降玉泡 (たまあわ)・地 (じ)大きな泡がぽつぽつ残り、やがて表面が見える
終盤ちりめん泡表面に細かい皺のような泡。発酵の終わりが近い

現在は泡が立たない「泡なし酵母」(きょうかい 701 号・901 号・1801 号など) を使う蔵が多く、泡でタンクの容量を取られず、泡消しの手間も要らない利点があります。そのため、この泡の変化は泡あり酵母を使う蔵や見学時の説明で出会う知識になっています。

発酵の期間と温度

酒のタイプ醪日数の目安発酵温度の目安ねらい
普通酒・本醸造20〜25 日12〜15℃米をよく溶かし、効率よく発酵させる
純米酒25〜30 日10〜14℃旨味と酸のバランス
吟醸・純米吟醸30〜35 日8〜10℃低温でゆっくり発酵させ、吟醸香を引き出す
大吟醸・純米大吟醸35〜45 日6〜8℃さらに低温・長期。香り高く雑味の少ない酒

低温で長く発酵させるほど酵母がゆっくり働き、りんごやバナナのような吟醸香 (カプロン酸エチル・酢酸イソアミル) が出やすくなります。これが吟醸酒を冬の寒い時期に造る理由の一つで、現在は醪のタンク自体を冷やせる「サーマルタンク」で季節に左右されず温度を保つ蔵が増えています。→ 寒造りとは?

醪の中で生まれる味の成分

  • アルコール: 搾る直前の醪で 17〜20% 前後。市販酒の 15〜16% は加水で調整した値で、加水しないものが 原酒 です。
  • 糖 (甘さ): 糖化と発酵のバランスで決まります。残った糖が多いほど甘口。→ 日本酒度とは?
  • 酸: 酵母が作る乳酸・コハク酸・リンゴ酸など。酸度が高いと味が締まり、低いと甘く感じます。→ 酸度とは?
  • アミノ酸: 麹の酵素が米のたんぱく質を分解して生まれる旨味。多いとコク、過ぎると雑味。
  • 香り: 酵母が作るエステル類。吟醸香はここで決まります。

杜氏が「搾るタイミング」⁠を決める方法

醪を長く置けばアルコールは上がり続けますが、酵母が弱ると雑味や老香の原因になります。杜氏は、日本酒度 (糖の残り)、アルコール分、酸度の推移を折れ線にした「BMD 曲線」や、泡の様子、きき酒を総合して「今日が搾り時」を判断します。狙いより発酵が進みすぎそうなら温度を下げて止め、足りなければ数日待つ。この見極めが、同じ原料でも蔵ごとに酒が違う理由の一つです。杜氏の役割は 杜氏とは? を参照してください。

ラベルや蔵元の説明で醪に関わる言葉

言葉意味
三段仕込み原料を 3 回に分けて加える標準的な仕込み方
四段仕込み発酵後に蒸米などを加えて甘みを足す技法
醪日数留添から上槽までの日数。長いほど低温長期発酵の傾向
長期低温発酵吟醸酒の説明で定番の表現。醪日数 30 日以上・10℃以下が目安
もろみ (にごり酒の説明で)醪をそのまま粗く濾したのがにごり酒。醪を濾さないものは法律上「どぶろく」で、清酒ではない

こんな人におすすめ

  • 「三段仕込み」「醪日数」「長期低温発酵」といった言葉の意味を確かめたい人
  • 酒蔵見学で醪タンクの説明を聞く前に、泡や温度の話を知っておきたい人
  • 吟醸酒とそれ以外の味の違いを、発酵の仕方から理解したい人

よくある質問

醪とは何ですか?

酒母に麹・蒸米・水を加えて発酵させている状態で、日本酒の本発酵そのものです。搾ると清酒と酒粕に分かれます。

三段仕込みはなぜ 3 回に分けるのですか?

一度に原料を入れると酵母と乳酸が薄まり、雑菌に負ける危険があるためです。酵母が増えるのを待ちながら、初添・仲添・留添と段階的に量を増やします。

醪はどれくらい発酵させますか?

普通酒で 20〜25 日、吟醸酒で 30〜35 日、大吟醸で 35〜45 日程度が目安です。低温で長く発酵させるほど香り高くなります。

醪とにごり酒・どぶろくの違いは?

醪を粗い布で濾して固形分を残したのがにごり酒 (清酒)。醪を濾さずそのまま飲むのがどぶろくで、酒税法上は清酒ではありません。

泡なし酵母とは何ですか?

発酵中に高泡を立てない性質の酵母です。タンクを有効に使え、泡消しの手間がないため、現在多くの蔵で使われています。

出典・参考

  • 国税庁「酒のしおり」「酒税法における清酒の定義」
  • 日本酒造組合中央会「日本酒の基礎知識」
  • 独立行政法人 酒類総合研究所「清酒製造技術」関連資料

あわせて読みたい

まとめ

醪は、酒母に麹・蒸米・水を三段仕込みで加え、3〜5 週間かけて並行複発酵を進める日本酒の本発酵です。温度を低く長く保てば香り高い吟醸に、高めで短くすれば旨味のある酒に。泡の変化や分析値を見ながら杜氏が搾る日を決めるこの工程で、日本酒の味の大半が決まります。