「ちなみに私、さっき楽屋で飲んだのは第1部のお酒。全部並べてもらって、飲ませていただきましたので、早くみんなに追いつきたいです」
登場するなり会場を沸かせたのは、声優の茅野愛衣さん。2026年10月17日(土)14時30分、東京ポートシティ竹芝で開かれた超吟醸祭2026の第2部は、日本酒YouTube番組「かやのみ」で知られる"飲んべえの女神"らしく、始まる前から出来上がりつつある最高の空気でスタートした。
42蔵・156銘柄が集う2日間。昨年の事前検査で「酒豪」タイプの結果が出たことに触れられると、「私よりも強い方はたくさんいらっしゃいますし、自分のペースで飲めばみんな酒豪だと思いますので、好きという気持ちが大事かなと思って飲んでおります」。今年のタイプ診断は「酒席ナビゲーター」。進行はフリーアナウンサーの竹内里奈さん、乾杯トークショーは琉球酒豪伝説の協賛、そして全ステージの解説役・南部美人の久慈浩介社長は、この回は蔵元としても登壇する。
🎙 この祭典の解説役
「南部美人」(岩手・二戸)の五代目蔵元・久慈浩介社長。昨年まで日本吟醸酒協会の理事長を務め、超吟醸祭2026では2日間・全6部のステージに立ち続けて、各蔵の酒と造りをその場で解説した。
写真出典: 南部美人公式サイト

楽屋ではお寿司・牡蠣・ホタテが用意されていたのにお酒がなく、「こんなの拷問だと思って」「『何か必要なものあったら言ってくださいね』『お酒です』」というやりとりがあったことも明かされた(スタッフが慌てて取りに走ったという)。
鏡開き──「ご褒美タイムみたいなことがあっていいんでしょうか」
恒例の鏡開きには、下越酒造(新潟)、青木酒造(新潟)、南部美人(岩手)、利守酒造(岡山)、夢心酒造(福島)、賀茂泉酒造(広島)、中尾醸造(広島)の7蔵が登壇。蔵元たちに囲まれた茅野さんは「私がなんか、こんなご褒美タイムみたいなことがあっていいんでしょうか」。会場全員の「よいしょ、よいしょ、よいしょ」で樽が開いた。


ここからの乾杯リレーは、当日スクリーンに投影されたスライドとともに登壇順に振り返る。この回の見どころは、茅野さんが一杯ごとに繰り出す"擬人化テイスティング"だ。
一蔵目・下越酒造「蒲原」──狐のお面と、イケメンの酒

先頭は新潟・阿賀町津川の下越酒造(1880年創業)。蔵元は親子2代で国税局の鑑定官を務めた"お酒の先生中の先生"だ。この日の一本は、山田錦と五百万石のいいとこ取りをした新潟の酒米「越淡麗」を45%まで磨いた「蒲原(かんばら)純米大吟醸」。登壇した蔵元は狐のお面を着けて現れた。地元・津川に伝わる「狐の嫁入り行列」にちなんだ趣向で、「五穀豊穣の願いが込められている」という。
ここで茅野さんが乾杯コールに新ルールを発明する。「私が『いい声と』って言ったら、『酒を浴びろ』もみんなに言ってもらいたいんですけど」──以後この回の乾杯は、ステージと客席のコール&レスポンスになった。
🍶 この一杯、どうでした?
蒲原 純米大吟醸 越淡麗(下越酒造/新潟・阿賀町)
「これはすごいイケメンです。端麗な、本当に美しい顔立ちで、でも飽きの来ない、毎日そばにいてほしい感じの、いい子ですね」

ちなみに狐のお面には「鬼滅の刃」の胡蝶カナエ(茅野さんの役どころ)へのオマージュも込められていたそうで、「ちょっと意識しました」と蔵元。「今日頑張ってキャラを立てようと思って来てるので」という言葉どおり、第2部の蔵元たちは小道具が豊作だった。
二蔵目・青木酒造「鶴齢」──雪室で角が取れた"ボブの女の子"

新潟2蔵目は南魚沼の青木酒造。平均年齢31歳の若い蔵人たちが雪国の酒を醸す。代表銘柄「鶴齢(かくれい)」の純米吟醸は、こちらも酒米は越淡麗。「今まで私『か↗くれい』かと思ってたんですけど」「『か↘くれい』です」「今日から辞書をアップデートします」というイントネーション講座から始まった。
🍶 この一杯、どうでした?
鶴齢 純米吟醸(青木酒造/新潟・南魚沼、越淡麗)
「さっきはイケメンでしたけど、この子はやっぱ女の子な感じがしますよね。美しい華やかな、ちょっと線の細そうな色白な女の子」──飲んで一言、「髪型はボブでした」

蔵の全てのお酒は、瓶詰め後に雪で冷やされた雪室貯蔵庫で寝かせてから出荷される。「角が取れてまろやかに」という説明に、「イケメンじゃなくて、ちょっと角が取れた色白の女の子な感じがするのは、そのせいかもしれませんね」と茅野さんの擬人化がさっそく裏付けられた。
三蔵目・南部美人「酒未来」──解説役、蔵元として登板

「今度僕です」と、解説役の久慈社長がここでは蔵元として登壇。携えてきたのは「ビューティーシリーズ」の純米大吟醸だ。山田錦・愛山・雄町・酒未来の4種類があり、「精米歩合、仕込み配合、酵母、麹菌、搾り方、火入れの方法、貯蔵の方法、そして仕込んでいる愛情も一緒。全部一緒なんだけど、米だけが違う」という、酒米の個性を飲み比べるためのシリーズ。この日は山形生まれの希少米・酒未来の一本だった。
🍶 この一杯、どうでした?
南部美人 純米大吟醸 酒未来(南部美人/岩手・二戸)
「すごいです。飲んだ瞬間に、パッて花咲くような」「すごい華やか。本当に甘やかで、なんか喉にも優しそう。風邪ひいた時とかに飲みたい」(久慈社長「絶対ダメです。やめてください」)

「米って食べてもあんまり味わからないのに、酒にするといろんな味になる。同じ米でも蔵が違うと全然味が違ってくる。まか不思議ですよ」と久慈社長。この一杯への茅野さんの擬人化は少し間を置いて届いた──「絶対マスカラ塗るの上手ですよ、この子。メイクが上手で、いろんな色になれるというか」
四蔵目・利守酒造「酒一筋 時代おくれ」──雄町のスペシャリストと"イケオジ"

岡山・赤磐の利守酒造(1868年創業)は、幻の酒米と呼ばれた地元の「赤磐雄町」を復活させた、雄町のスペシャリスト。この日の一本は雄町で醸した山廃純米吟醸「時代おくれ」。「時代を下りていくということで、時代の先を行く酒っていう意味で名付けたお酒です」と蔵元。茅野さんは「酒一筋は私、お寿司屋さんで初めて飲んだんですけど、名前のインパクトが強くて、つい頼んじゃいます」と、もともとのファンであることを明かした。
🍶 この一杯、どうでした?
酒一筋 時代おくれ 山廃純米吟醸(利守酒造/岡山・赤磐、雄町)
「私はもう、この山廃とか雄町とかっていう言葉に弱いので、すべてにツボという感じがします」「これはやっぱり、50代ぐらいのイケオジを想像しながら飲むと、よりいいかもしれない」

このあたりで客席には、心地よさのあまり眠ってしまう方もちらほら。茅野さんは起こすどころか「いいんですよ、お眠りなさい」と、聞いたことのない角度のファンサービスで包み込んだ。「今酒は浴びれないかもしれないけど、いい声は浴びられますからね」と竹内さん。
五蔵目・夢心酒造「奈良萬」──10年分の古酒を"社長の舌"でブレンド

福島・喜多方の夢心酒造が注いだのは、「奈良萬」純米大吟醸のアッサンブラージュ。「過去10年分くらいの古酒を、各年代どのくらいの割合かで、社長の舌で確かめながらブレンドしたお酒になります。社長の舌が確かなうちは、毎年同じようなお酒ができると思います」──直後に「社長、喜多方ラーメンしか食ってないじゃん」と久慈社長のツッコミが入り、「あとさっきマックも食べてたみたいなんです」と蔵の方も便乗して会場が沸いた。
🍶 この一杯、どうでした?
奈良萬 純米大吟醸 アッサンブラージュ(夢心酒造/福島・喜多方)
「本当に美味しいです。バランスがすごくいいですね」──擬人化は「男性とか女性とか、そういうくくりじゃない感じ。意外になんか丸っこい着ぐるみをまとっている誰かを想像しちゃいます」(蔵の方「社長そのまんまです」)

この乾杯で茅野さんは会場を3ブロックに分け、「いい声と」「酒を浴びろ」、そして眠そうなエリアには「おはよう」を割り当てるウェーブ式コールを敢行。「団結力すげー」「最高ですね」と大成功だった。ステージで注がれたアッサンブラージュはこの時点でブース在庫が尽きており、「今飲んでる皆さんは貴重なものを飲まれているということですね」。ブースには鑑評会用に斗瓶貯蔵した一本も特別に持ち込まれていた。
六蔵目・賀茂泉酒造「朱泉 本仕込」──手違いから生まれた、この日一番の名場面

酒都・西条の賀茂泉酒造からは、「賀茂泉で乾杯」と書かれた世界に一つの手作りサングラスを掛けた前垣さんが登壇。ところがここで、まさかの告白が飛び出す。「すべて私の勘違いで──今日、茅野さんに飲んでもらいたいなと思ったお酒は、こっちなんだけど」。会場に配られていたのは、緑のボトルの「ロックホッパー」(テーマは"重力を忘れろ"、アルコール17度の原酒)。茅野さんに注ぎたかった代表銘柄「朱泉 本仕込」は、なんと目の前のお客さんが買ったばかりのボトルしかない。
そのお客さんが快くボトルを差し出し、ステージで開栓。「垂れた酒のところとか、みんなでこうやって(ご利益を)」「1万円からオークションじゃない」と笑いに包まれながら、茅野さんはお礼に自らそのボトルからお客さんへ注ぎ返した。「いい買い物しましたね、今日」
🍶 この一杯、どうでした?
賀茂泉 朱泉 本仕込(賀茂泉酒造/広島・西条)
「沼です!ここの字を沼にして販売するのも作ってほしいぐらい。沼酒ですよこれ。ほんと危険です」「ロックホッパーのムーンウォークより、こっちの方が足取りが軽くなります」

ラベルには「酒」の字を据え、和歌が添えられている。「ささたけの 君がくみたる 旨酒に 我酔いにけり その旨酒に──あなたがついでくれたお酒はあまりにおいしいので、私は酔っ払いました」「ただの酒飲みの歌です」「ただの酒飲みの歌がいいんですよ」。ブースではこの朱泉をお燗で提供中と聞いた茅野さんの「それも飲みたい」の一言で、後半には燗酒がステージまで"デリバリー"されることになる。乾杯コールはもちろん「賀茂泉で乾杯!」だった。
七蔵目・中尾醸造「まぼろし黒箱」──年に一度だけの幻

トリは広島・竹原の中尾醸造。50年近く続く吟醸酒シリーズ「幻(まぼろし)」の中でも、麹づくりを手作業で行い最も手間をかけた「黒箱」を開けた。11月に一度だけ限定出荷される一本だ。竹原はアニメ「たまゆら」の舞台で、「私は、たまゆらという作品でお世話になっていて」と茅野さんにも縁の深い土地。代表銘柄「誠鏡」には「うちのマネージャーが初めて虹を──美味しすぎて飲んでしまったお酒でもあるので、すごいご縁を感じて嬉しいです」という危険な思い出まであるという。
🍶 この一杯、どうでした?
純米大吟醸原酒 まぼろし黒箱(中尾醸造/広島・竹原)
「なんかもう、ついだところからトロトロしてる感じがします」「蜜感があります」「めちゃめちゃ美しくないですか」

最後の乾杯コールは3ブロック式の集大成で、客席の担当は「いい声と」「酒を浴びろ」、そして「まぼろし〜」。見事に揃った瞬間、「これ録画しておきたかったね。まぼろしの瞬間が生まれました」。
質問コーナー──「休肝日を作らないがモットーです」
後半は飲みかけの7種をずらりと並べたまま、投稿質問に答えるコーナーへ(「休憩しないで飲んでましたからね」「最高です」)。
月に一度の"悪い子の日"を作っているという投稿には、きっぱり首を横に。「そういうのを作るのは、私は反対です。すべてのお酒と食材に感謝、感謝で食べるので、悪くない。いい子の日です、それは」。ちなみに発作的に食べたくなるのはケンタッキーで、「オリジナルチキンとビスケットとコールスローサラダ。サラダをビスケットに挟むとおいしい」「ケンタッキーは飲めます」。すかさず久慈社長が「賀茂泉さんのお燗酒なんかは、ケンタッキーとすごく合うと思います」と繋ぎ、ここで例の燗酒デリバリーが実現。「賀茂泉で乾杯」ならぬ「忘れちゃおう、乾杯!」の声とともに、茅野さんは「おいしさのね、これは飲みに行ったほうがいいです。絶対行ったほうがいいですよ」とブースへ送客していた。
お酒の失敗談を求められると、「あんまり失敗ってないな」。むしろ「私は休肝日を作らないをモットーにしてるので」「我慢してわーって飲むと飲みすぎちゃうんで、私は我慢しません」という堂々の酒道を披露した。
声優とお酒の関係も語られた。「低い声を出そうとか、男の子の声をやるっていう時に、お酒の力を借りることもあるんですけど」「私は飲んだ方が調子がいいので」。さらに「日本酒ってちょこっと飲むと肌ツヤ良くなると思うんですよ。『何の化粧品使ってんの?』って言われたら、『日本酒』。私は大体、現場でそう答えるようにしています」
20歳の頃の思い出は、声優になる前のmixi時代。「お酒を飲む会みたいなのに所属してみたことがあって。30人くらいが1人1本ずつお酒を持って行って、レストランを貸し切って、全部1杯ずつ飲んだんですよ」。結果は30杯。「虹は大丈夫じゃなかったです」「でも、その修行があったから今があると思っているので。そういう意味ではmixiの日に感謝」

「私は勝てたと思います」
あっという間の90分(「今何時ですか?そんなに時間が経ったんですか?」)。締めの挨拶で茅野さんは、この日の心持ちをこう明かした。
「やっぱり超吟醸祭は楽しみに来たけど、やっぱり戦闘モードで来なきゃっていう気持ちがあったので──でも、私は勝てたと思います」
「すべての蔵の方たちの笑顔と熱意を一心に浴びられて、めちゃめちゃ楽しい時間でした。またぜひ呼んでください」。退場の際は客席の間を回り、「みんな気をつけて帰ってね」「飲みすぎないようにね」と乾杯を交わしながらのお見送り。幻の黒箱は「じゃあ、これはいただいて帰ります」としっかり抱えて帰っていった。

ステージの最後は、2027年5月29日(土)・30日(日)に同じ東京ポートシティ竹芝で開催される新イベント「ハレサケ」の告知。テーマは「晴れの日に日本酒を」。就職・転職・卒業・独立・結婚、新しい門出を日本酒で乾杯するお祭りだ。
