「日本酒を知って、日本を知るような、そのきっかけになれば嬉しいなと改めて思いました」
2026年10月17日(土)午前11時30分、東京ポートシティ竹芝。超吟醸祭2026の幕を開ける第1部のステージに立ったのは、4回目の開催で唯一の皆勤出演となるEXILE/EXILE THE SECONDの橘ケンチさんだ。2018年に「酒サムライ」の称号を受け、今年は広島で開かれたIWC2026のSAKE部門で広報アンバサダーも務めた、日本酒界きっての伝道者である。
会場が池袋から竹芝へ移って最初の回。「去年までずっと池袋でやってて、あそこもあそこで面白かったですけど、雨の心配もないし、いいですね」とケンチさん。42蔵・156銘柄が集う2日間の先陣として、栃木・富山・福島・山梨・奈良の7蔵と乾杯を重ねた90分を、現地から記録する。進行はフリーアナウンサーの竹内里奈さん。乾杯トークショーは琉球酒豪伝説の協賛で行われた。

「棚の泡盛を全部飲んだ」──酒豪伝説と鏡開き
協賛の琉球酒豪伝説にちなんだ「酒豪伝説な一面」を聞かれたケンチさんは「一面どころじゃないんですけど」と前置きして、10年ほど前の沖縄の夜を明かした。エンターテインメントスクールEXPG STUDIOのダンスレッスンで沖縄を訪れた際、たまたま入った店の壁中の棚に泡盛がずらり。「とりあえず今日はみんなで飲み切ろうって話をして、棚のこっちから始めて一個ずつ飲んでいって、結局最終的に全部飲みました」
日本吟醸酒協会・島崎理事長の挨拶に続いて鏡開きへ。登壇したのは島崎酒造(栃木)、桝田酒造店(富山)、天鷹酒造(栃木)、若鶴酒造(富山)、開当男山酒造(福島)、山梨銘醸(山梨)、梅乃宿酒造(奈良)の7蔵。そして、昨年まで理事長を務めた南部美人の久慈浩介社長が合流する。自称は「盛り上げ係」だが、実際はこの後の乾杯リレーで各蔵の酒と造りに知識を添えていく解説役だ。「鏡開きはとてもおめでたい日本の伝統的な儀式。よく『鏡割り』っていう人がいるんですけど、割っちゃいけません。めでたいから鏡開きです」という久慈さんの解説のあと、EXILEのライブ級の歓声を求められた「よいしょ、よいしょ、よいしょ」で樽が威勢よく開いた。
🎙 この祭典の解説役
「南部美人」(岩手・二戸)の五代目蔵元・久慈浩介社長。昨年まで日本吟醸酒協会の理事長を務め、超吟醸祭2026では2日間・全6部のステージに立ち続けて、各蔵の酒と造りをその場で解説した。
写真出典: 南部美人公式サイト


ここからの乾杯リレーは、当日スクリーンに投影されたスライドとともに登壇順に振り返る。
一蔵目・島崎酒造「熟露枯」──洞窟で5年眠った一杯から始まる

トップバッターは栃木・島崎酒造(1849年創業)。「最初から変わり種から入りました」と注がれたのは、洞窟で5年熟成させた純米吟醸「熟露枯(うろこ)」だ。戦時中に戦車工場として掘られた全長600メートルの洞窟が地元に残り、年間を通じて約10度。中には約10万本が眠り、大吟醸の熟成は1970年から56年分。「私は1969年生まれで、私の年がないんです。翌年からの大吟醸がフルビンテージで」という島崎さんの話に、ケンチさんも「それはぜひ行ってみたいです」。
🍶 この一杯、どうでした?
熟露枯 純米吟醸 熟成5年(島崎酒造/栃木・洞窟熟成)
「濃いですね。これは味わい深い」「最初のファーストインパクトは結構ガツンとくるんですけど、その後バニラアイスクリームみたいに、わーっと口の中でとろけて。これは美味しいですわ」

合わせる料理は、これからの時期の「落ち鮎(子持ち鮎)の塩焼き」。仕込み水と同じ川の恵みだ。久慈さんも「造りがいいから、熟成していっても優しさが残るし、綺麗さが残る」と太鼓判。ブースは大学生の子どもたちも立つ家族総出。事前インタビューシリーズでも話題に出た洞窟熟成の蔵は、この日も4種類を注いでいた。
二蔵目・桝田酒造店「満寿泉 土遊野」──社長のダジャレと、有機の棚田

続いては富山の「満寿泉」桝田酒造店(1893年創業)。ワイン酵母にワイン樽・ウイスキー樽熟成と、挑戦を続ける蔵だ。この日の一本は、富山の農場「土遊野」が有機無農薬の棚田で育てたイセヒカリで醸した純米大吟醸「土遊野」。ラベルには英語で「Do you know」──「それは社長のダジャレですね」と、登壇した蔵の方があっさり明かして会場が沸いた。土遊野(どゆうの)とDo you knowの掛け言葉である。
🍶 この一杯、どうでした?
満寿泉 純米大吟醸 土遊野(桝田酒造店/富山・イセヒカリ)
「満寿泉の味がする。無農薬米の厚さというか、複雑味はしっかり出てますね」「後味、なんかちょっとグレープフルーツみたいな柑橘系の味わいがしますね」

ケンチさんは蔵の常連でもある。「富山でお酒を作りながら街づくりをされていて、酒蔵の周りに飲食店だったり工芸の作家の方を呼んだり。ぜひ一度現地で飲んでほしいです」。蔵近くの直営店「沙石」では常時100種類の満寿泉が飲め、30年前の酒も置いてあるという。そして熱のこもった一押しが飛び出す。「満寿泉のプラチナは僕大好きで。めちゃくちゃいいお酒。騙されたと思ってプラチナ行ってみてください。絶対行ったほうがいいです」
三蔵目・天鷹酒造「有機純米大吟醸 天鷹」──草刈りの夏が詰まった槽搾り

栃木・大田原の天鷹酒造は、オーガニック日本酒の醸造元。有機山田錦を35%まで磨いた「有機純米大吟醸 天鷹」の槽搾り原酒を携えてきた。自社の田んぼで米から育て、「夏の間はひたすら草刈り」と苦労を明かす。搾りも自動圧搾機ではなく伝統の槽(ふね)で行う。「お米もそうですし、作り方も全部手作業で」
🍶 この一杯、どうでした?
有機純米大吟醸 天鷹 槽搾り原酒(天鷹酒造/栃木・大田原、有機山田錦35%)
「柔らかく、もちろんお米の香りもするんですけど、甘く、完熟した果物みたいな香りが。黄色い桃みたいな感じがしますね」「これは美味しいです」

「桃入れてねえだろうな」と久慈さんが茶々を入れ、「100%お米ですね」と笑いに変わる。合わせるのは意外にもチーズ。ミラノの大会の「パルミジャーノ・レッジャーノ賞」で金賞、つまり"パルミジャーノ・レッジャーノに一番合うお酒"のお墨付きをイタリアでもらった蔵なのだ。ノースリーブの法被も話題になった(「ここを作るお金がないから短くした」と久慈さんのいじりも絶好調)。
四蔵目・若鶴酒造「苗加屋」──日本酒とウイスキー、二刀流の蔵

富山2蔵目は砺波平野の若鶴酒造(1862年創業)。全量富山県産米の銘柄「苗加屋(のうかや)」から、富山県産山田錦を50%まで磨いた、シリーズで一番香り高い純米大吟醸を注いだ。銘柄名は、蔵元がかつて「苗加」という土地で営んでいた旅館の屋号から。「なかなか読めないんですよね」とケンチさんが突っ込むと、久慈さんが「ケンチさんの突っ込む場所が本当に玄人中の玄人」。
🍶 この一杯、どうでした?
苗加屋 純米大吟醸 山田錦50(若鶴酒造/富山・砺波)
「芳醇ですね。豊かですね」「甘みと旨味もあって、これいいですよ」

若鶴酒造は三郎丸蒸留所でウイスキーも手がける二刀流の蔵。久慈さんいわく「三郎丸ウイスキーは、イチローズモルトと双璧の本当に素晴らしいジャパニーズウイスキー。日本酒も上手なんだからすごいですよね」。発酵の知見を日本酒とウイスキーで行き来させているという話に、ケンチさんも興味津々だった。
五蔵目・開当男山酒造「南山」──"男山サミット"構想が生まれた夜

福島・南会津の開当男山酒造は1716年創業。冬はマイナス20度にもなる雪国で、超軟水で醸す。この日の「南山 純米吟醸」は、南会津で採れた米と福島県開発の酵母で仕込んだ、地元にフォーカスした一本。「バナナとかマスカットに近いような香りがして、後味が軽やかですっきりしたお酒です」と渡辺さん。
ここでケンチさんから核心の質問が飛ぶ。「男山っていう銘柄って全国に結構いくつもあるじゃないですか。あれって何でなんですか」。答えは──男山は"酒の代名詞"で、「なんとか正宗」のように「なんとか男山」と付けるのが定番だった時代があり、今も全国に20数蔵。「全国のいろんな男山を飲み比べるイベントとかしても面白いかもしれないですね」「男山サミット」と、ステージ上で構想が生まれて(押し付けられて)いた。
🍶 この一杯、どうでした?
南山 純米吟醸(開当男山酒造/福島・南会津)
「一口目から違いますね。香りがふわっと香るタイプ」「香り強くて後味すっきりな感じで、ちゃんと辛さもあり」──会津の塩味の強い食文化の話から「すみません、今勝手に個人的に塩だれカルビが食べたくなりました」

ラベルの「南山」の字は地元の書家によるもの。ブースでは出品酒クラスの「開当男山 大吟醸」や、花酵母で仕込んだフルーティーな「南花」も注がれていた。
六蔵目・山梨銘醸「七賢 大中屋」──"世界一"を隠して持ってきた蔵

山梨・白州町の山梨銘醸(1750年創業)は、南アルプスの天然水で「七賢」を醸す。登壇酒は屋号を冠した「七賢 純米大吟醸 大中屋」。米は地元の夢山水、精米歩合はなんと27%だ。「30%でも25%でもなく27%なんですね」とケンチさんが拾うと、「七賢の7にかけて、全部27%、37%、47%なんです」。久慈さんの「7%やればいいのに」には「社長に言っときますね」。
🍶 この一杯、どうでした?
七賢 純米大吟醸 大中屋(山梨銘醸/山梨・白州、夢山水27%)
「これも結構甘みもしっかりあって。美味しいです、非常に」

七賢はスパークリング日本酒の名手で、直近ではフランスのKura Masterで世界一の賞を受賞。「去年はIWCのチャンピオンも取ってるよね」と久慈さん。2年連続の世界一だ。そのチャンピオン酒を「実はリストにはないんですけど、隠して持ってきてます。この回だけ特別に飲めるかもしれないです」という爆弾発言に、ケンチさん「皆さん並んだほうがいいですよ。世界一の酒ですから」。今年から始めた1日1組限定のオーベルジュ(明治天皇が宿泊した建物が残る敷地)の話では「EXILE今度呼ぶ。全員に来てもらって」と盛り上がった。
七蔵目・梅乃宿酒造「葛城」──「今日一番緊張してる」蔵の、渾身の一本

トリは奈良・葛城の梅乃宿酒造(1893年創業)。関東では「あらごしみかん」などフルーツリキュールの蔵として知られるが、「日本酒って関東では知られていないので、今日ぜひ自慢の純米大吟醸を飲んでいただきたくお持ちしました」と、山田錦40%磨きの「葛城 純米大吟醸」を注いだ。「今日一番緊張してるんです、この人」と久慈さんに紹介された吉田さんは、日本酒発祥の地の一説もある奈良で「風の森さん、みむろ杉さんとかあって、そこに恥じないように、リキュールだけでなくしっかりした日本酒も作っていかないと」と語る。
🍶 この一杯、どうでした?
葛城 純米大吟醸(梅乃宿酒造/奈良・葛城、山田錦40%)
「美味しい。完成度の高さを感じますね」「これも甘みもしっかりあって」──蔵元の「リンゴや梨を感じていただけるかと思います」に、会場全員の首が縦に揺れた

7杯を飲み干したケンチさんの総括は、このイベントの核心を突くものだった。
「去年は10蔵以上あったので、今年はその分、一蔵一蔵しっかり味わおうと思ってきたので、やっぱり個性があって面白いなと思います。味はもちろんなんですけど、その日本酒と何を合わせるかとか、この日本酒はどういう場所で誰が作っているとか、そういうことをより知ると、日本酒に対してもっともっと興味が湧いてくる。そういう経験をこの超吟醸祭でしてもらって、より日本酒を知って、日本を知るような、そのきっかけになれば嬉しいなと改めて思いました」
質問コーナー──「移住する先を探してるようなもの」
後半は、投稿で募った質問にケンチさんが答えるコーナー。日本酒ファン歴の長い"ケンチ番"たちから、踏み込んだ質問が次々に飛んだ。
麻婆豆腐の次に注目しているペアリング食材は?──2年前にこのステージで麻婆豆腐ペアリングを語った伏線の回収だ。「麻婆豆腐は相変わらず好きなんですけど、最近はやっぱりお肉。肉ってビールとかハイボール、赤ワインとかありますけど、日本酒が合うところもあるなと思ってて。今日最初に飲んだ島崎酒造さんのパンチの強いやつとかは、絶対お肉にも合うと思う」
日本酒を味わうとき、体のどこを一番研ぎ澄ましているか、という通好みの質問には、「まず香りを嗅いで、口に含んでちょっと転がせて最初のインパクトを感じるのと、飲み込むときに舌の先から真ん中、奥にお酒が移行していくのを感じるのと、あと飲んだときの喉にあたる苦味とか。空腹の時は胃の感覚までクリアになるので、今胃に到達した、みたいなのがありますけど」と全感覚のテイスティング論。
人にお酒を贈るかには、「友達とご飯食べに行くときとか、ホームパーティーに呼ばれたときは、必ず日本酒を僕は持っていきますね。『やっぱり日本酒なんですね』みたいな顔されるんで、『そうですよ』っていう顔して持っていきます」。久慈さんが「日本酒業界の本当のPRをしていただいてる。日本酒界のプリンスですから」と感謝する場面も。
友達を日本酒に誘う一言を求められると、少し考えて「行く?」──この日一番の黄色い歓声が上がった。
熱燗の器のこだわりは、「熱燗は外で飲むことが多いので、お店のおちょこが多いですね。平盃だと香りがふわっと立ってくるので、それをちびちびっと飲むのがいい。量が少ないから注ぎ合いが発生して、思いやりの交換みたいなこともできる。あの文化は素敵だなと思います」。事前インタビューでも語っていた熱燗愛は健在で、「今日は後ろに賀茂泉さんという広島の蔵がお燗で出してくれてますので、ぜひ行ってみてください」と即座にブースへ誘導してみせた。
そして最後の質問、いつかやってみたいことへの答えが、この日のハイライトになった。
「パフォーマーとしての活動はできる限り踊っていきたいなと思ってますし、それと並行して、より地域に密着して、こういうイベントをやるとか、街づくりに参加するとか、そういうことを今後はもっとやっていきたい。地域に酒蔵があって初めて地域が成り立つし、酒蔵も成り立つんで、一緒なんですよ。──将来的に移住する先を僕は探してるようなもの。47都道府県、どこに次住もうかなみたいな」
会場がどよめき、久慈さんは「みんな立候補って手を挙げますよ」。兵庫(山田錦の本場)出身という話から、淡路島、離島へと夢は広がっていった。

「日本酒と皆さんとの接点を作ることができたら」
締めの挨拶で、ケンチさんは4年間この祭を見てきた立場から語った。
「回を重ねるごとに日本酒をこうやって好きになってくる方がいて、このイベントで日本酒を知る方もいるかもしれませんし、何かしら僕がこうやって活動することで、日本酒と皆さんとの接点を作ることができたら嬉しいなと思っているので、またぜひ来年も呼んでいただけたら」
司会の竹内さんの「もちろんでございます」が重なり、第1部は幕を閉じた。最後に流れたのは、2027年5月29日(土)・30日(日)、同じ東京ポートシティ竹芝で開催される新イベント「ハレサケ」の告知。テーマは「晴れの日に日本酒を」──就職・転職・卒業・独立・結婚、新しい門出を日本酒で乾杯するお祭りだ。


