自宅には、四合瓶が20本入る日本酒セラー。けれど、一人ではなかなか開けない。日本酒を飲む会がある日に「今だ」と持ち出して、みんなでわくわくしながら開ける──。
声優・アーティスト安野希世乃さんの日本酒との付き合い方は、聞けば聞くほど「集める楽しみ」と「分かち合う楽しみ」の二本立てだった。
そんな安野さんが今年も、10月17日(土)・18日(日)に東京・浜松町で開かれる超吟醸祭2026に登場する。全国の蔵元が一堂に会し150銘柄以上の吟醸酒が並ぶ2日間。参加は今回で3回目、今年は10月18日(日)第4部のステージに立つ。
出演を前にした取材の場は、日本酒に造詣の深いオーナー・野崎さんのお店。テーブルには次々と酒が注がれ、お酒の診断から、セラーの失敗談、新政の"米違い"、そして初めてじっくり向き合う熟成酒まで──一杯ごとに話が転がる、飲みながらの取材となった。超吟醸祭の会場で待っているのは、きっとこんな時間だ。その日の酒の流れごと、お届けする。

お酒の診断、結果は「ほろ酔いトラベラー」
取材はまず、SIPORYのお酒の診断から始まった。味の好みではなく「どんな環境でお酒を楽しみたいか」を24問で掘っていく診断に、安野さんは「楽しそう」と乗り気で回答していく。
旅行先ではその土地の居酒屋に入りたくなる。地酒を飲みたくなる。本日のおすすめを試したくなる──この辺りの質問には、迷いなく強い同意。お店の人に勧められたものには「全部乗っかる」と言い切った。
そして「酒フェスやイベントの空気にワクワクするか」という質問には、力強い肯定。酒そのものだけでなく、その場の空気、人との出会い、乾杯や会話が生まれる瞬間ごと楽しむタイプだ。超吟醸祭への出演を控えた本人の回答として、これ以上の"意気込み"はないだろう。
一方で、意外な回答も。飲み会の最初の一杯に特別感があるか、という質問には「やや当てはまらない」。一杯目から日本酒には行かず、まずビールで"ジャブ"を打ってから日本酒に向かうので、むしろ二杯目が本番なのだという。
そして「何を飲むかより、誰と飲むかが大事」という定番の問いには、いちばん慎重に答えた。誰と飲むかは、もちろん大事。詳しい人と飲めば、同じ酒がよりおいしく感じられる。それでも"何を飲むかより大事"とまで言ってしまうと、酒そのものへの敬意が逆転してしまう気がする──。一本一本を作品として尊重する律儀さが、回答の端々ににじむ。
診断の結果は「ほろ酔いトラベラー」──新しい街、新しい店、新しい酒、偶然の出会いを楽しみながら飲み歩くタイプ。本人も「外で飲みます」と即納得だった。

「ライト層の私が、蔵元さんと話しながら飲める。他にない」
3回目の参加となる超吟醸祭を、安野さんはどう見ているのか。
「超吟醸祭のありがたいところは、ライト層である私が、ステージ上でたくさんの蔵元さんのお話を伺いながら、いろいろ飲ませてもらえること。他にないイベントだなっていうありがたさを感じています」
──ただ、これだけは書き添えておきたい。この後の取材で見えてくるのは、日本酒の資格試験に挑み、自宅で杉チップの香りづけを試し、自らプロデュースした酒まで携えてくる姿だ。取材を通して感じた安野さんは、日本酒への熱も造詣もとても深く、まったく「ライト層」ではない。この言葉は、本人の謙遜として読んでほしい。
その先に、体験してみたい景色もある。蔵元さんが飲食店にやって来て、深い話をしてくれる。料理はお店の人がペアリングを考えて作ってくれて、コースで食べられて、飲める──そんな試飲会には「あんまり参加した経験がないんですよ。2回ぐらいあるんですけど」と、もっと飛び込みたい様子。飲む人と造る人の距離を縮める場への関心は、尽きることがない。
TICKET
安野希世乃さんが出演する10/18(日)に行くなら
Day2通常 ¥4,980(10/18に2時間試飲し放題・全酒蔵ブースで試飲できます)。20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。
「フルーツと日本酒で、永久機関が生まれる」
──イベント会場にあったら嬉しいフードはありますか?
「私が日本酒と合わせて好きなのが、生のものなんですよね。フルーツとか食べながら日本酒を飲むのも好きで。フードトラックでも出せそうっていうことで言うと、フルーツ盛り。イチゴとか梨とか、絶対合いますよね。軽くてフルーティーなお酒とフルーツなら、"永久機関"が生まれるので」
食べれば飲みたくなり、飲めば食べたくなる──永久機関。会場のキッチンカーで実現したら、たしかに危険なことになりそうだ。そしてもうひとつ、最近の発見が海のものだという。
「最近合うなと思ったのが、めかぶとか海ぶどうなんですよ。もずくも合うので、軽さとフレッシュさで、沖縄料理って絶対日本酒に合うのになって思ってるんです。なのに、沖縄料理店ってあんまり日本酒を置いてないんですよ」
泡盛や焼酎と合わせるのが前提になりがちな、沖縄料理。そこに彼女は、未開拓の鉱脈を見ている。
「合わせようと思ったら、いくらでも日本酒と合わせる可能性があるのにな、って。熟成系も軽めも可能性はあるのに、もったいない。教えてあげたいと思ってます。ゴーヤも合うと思いますし──程よく苦味をちょっと残しつつ、出汁浸しとかも合うじゃないですか。"苦い! うまい!"ってなりながら、それを日本酒でいただくみたいな。そういう可能性も探れるなと思って」
妄想は、まだ存在しないお店の構想にまで及ぶ。
「沖縄に惚れ込んだけど日本酒も大好きな内陸の人が、沖縄で修行して帰ってきて、本土で沖縄料理と自分の地元の地酒を合わせる──そういうお店も、発想としてあったら面白いんじゃないかと。地元の地酒がまずあって、沖縄料理をエッセンスとして取り入れる。そっちの方が本州では成立しやすいのかも、とか思います」
「気づいてないんですよ。可能性があるんです、この重なるような部分に」
──フルーツ盛りから、まだ世にない沖縄料理×地酒の店まで。この引き出しの多さこそ、"飲みながら考える人"の証である。
サシ飲みしたい相手は、千利休──"わび酒"という夢
──この人とじっくりサシ飲みしたい、という方はいますか? 歴史上の人物でも構いません。
「さっき"ほろ酔いトラベラー"という名称をいただいた上で恐縮なんですけど(笑)、歴史上の人物でいいなら、パッと浮かんだのは千利休。千利休と飲んでみたいんです」
お茶ではなく、酒で。名付けて"わび酒"である。
「わび茶の概念で、わび酒をしてみたいんですよね。茶室って、"精神と時の部屋"みたいな感じじゃないですか。一服立てたものを"どうぞ"、"はい"といただくように、少量でいいんです。少量の日本酒を少量の肴と一緒に、二畳ほどの空間で千利休と、"この日本酒は…"っていうふうにやりたい。作法は崩れていてもいいんだけど、わびさびの場所で、少量の日本酒をありがたがって飲みたいんです」
この"非日常で丁寧に飲む"願望には、伏線がある。実は安野さん、車中泊動画を見るのが大好きなのだという。軽バンで湖畔や眺めのいい場所へ行き、ミニマムに泊まる、あの文化だ。そして動画の海で、運命の出会いを果たしてしまった。
「一人、とんでもない車中泊キャンパーの方がいて。バンを後ろからガッと開けると、茶室になってるんですよ。間接照明を駆使して、畳が敷いてあって。"あなた何やってるんですか"と聞かれて、"全国移動茶室をやらせてもらってます"って。お茶が好きで、車中泊も好きで、全国を巡りながら一服のお手前を一人ひとりに届ける活動をされているらしくて──あ、これ日本酒でやれたらいいのにって、すごく思いました」
「わびさびの狭い空間で、一服的な感じで日本酒をグラスでいただく。日本全国、いろんな山を見ながら飲むでもいいし、湖の湖畔で飲むでもいい。いつかやりたい夢ですね」
出す酒はもちろん、地のもの。
「道の駅に到着して、地元の酒屋に行って、"地酒どれですか"って言いながらおすすめしてもらって、一本もらって車に戻るじゃないですか。もう運転できないですからね。"今日はここ"って決めたロケーションで、いい景色を見ながら」
飲酒運転への線引きも、きっぱりしている。
「飲んじゃったら(運転は)しないですから。サイトに行って、ここだって決めて、キャンピングの用意をして、"もう寝るだけだぞ"となってから。──一人でもいいんですよ。日本の風景と一緒に、一服のお茶をいただくかのように丁寧に一杯の地酒をいただく。企画として成立しますね、これ。」
車中泊用の車を買うところから始めたいというから、本気だ。新しい街、新しい店、新しい酒、偶然の出会い──診断の「ほろ酔いトラベラー」が、そのまま企画になったような夢ではないか。

亀泉CEL-24は「好きなリストに入れたい」
診断のテーブルで注がれていたのは、高知・亀泉酒造の「CEL-24」。リンゴ酸由来の甘酸っぱさが特徴の酵母を使った、フルーティーな純米吟醸だ。
🍶 この一杯、どうでした?
亀泉 CEL-24 純米吟醸(亀泉酒造/高知)
好きな日本酒のリストに入れたいくらい、おいしい──と、思わず絶賛の一杯。
精米歩合50%の純米吟醸であることに触れながら、純米大吟醸としても成立しそう──と、スペックを確かめつつ味わっていた。話題は酵母つながりで、宇宙を経由したとされる「宇宙酵母」、さらには"音楽を聴かせた酒"へ。安野さんは声優として、日本オーディオ協会主催の「OTOTEN2026」に出演した際、楽曲を"振動"として酒に伝える装置の展示を見たことがあるという。音楽を流すのではなく、無音のまま楽曲の情報を振動で酒に与える加振酒──その発想がとても面白かったのだそうだ。
肝心の味への影響を聞かれると、「元の状態を知らないので、"うまい"としか言えなかったです」と正直に笑う。発酵中の醪では酵母の対流が大事で、外部からの刺激が影響する可能性はある、という野崎さんの解説に、安野さんは興味深そうに聞き入っていた。
新政の"米違い"を利く──改良信交と亀の尾
続いてテーブルに並んだのは、秋田・新政酒造の頒布会の2本。今年のテーマは「米」だ。野崎さんの解説によれば、一本は秋田最古の酒米とされる「改良信交」、もう一本は東北で栽培されてきた「亀の尾」。亀の尾はもともと食べるための飯米で、現在は酒造りに適した米として再評価されているという。
面白いのは精米歩合の対比だ。改良信交は60%精米、亀の尾はわずか20%しか磨かない80%精米。高度な精米技術のなかった江戸時代は80〜90%ほどの磨きで酒を造っていたとされ、この低精白は古い造りへの参照でもある。全量生酛、そして新しい木桶の香りをあえて酒に移す新政の造りが、磨かない米の旨味を現代的に洗練させていく。
この木桶の話に、安野さんがまさかの告白を重ねた。
「私が家でやってる、杉のチップをお茶のパックみたいなのに入れてジャブジャブして飲む、簡易版の杉の香りづけとは一線を画す──プロはこうする、っていうことですね」
自宅で"木桶風"を自作していた人である。
🍶 この一杯、どうでした?
新政 頒布会「改良信交」(新政酒造/秋田・精米歩合60%)
「木桶の味だったんだ、これ」──ずっと新政に感じていた独特の要素の正体に、一口で気づいた。
🍶 この一杯、どうでした?
新政 頒布会「亀の尾」(新政酒造/秋田・精米歩合80%)
「すごく違いますね。スキッとした感じがある。……確かに、ちょっと苦いんだけど、高めの酸味」
やや苦味のある高めの酸味は、鑑評会のような減点方式の場では不利になりやすい。しかし料理と合わせれば、その苦味や渋味こそが切れや爽快感として働く──そんな食中酒談義のなか、安野さんが身を乗り出す。
「あるんです。日本酒なんとなく飲みたいなっていう気分で外食に出かけて、そんなにお腹は減ってないけど、とりあえず一杯って飲むと、そこからいろいろ連想して──あ、なんか食欲湧いてきた! 白身魚! 白身魚! 今すぐに! みたいな、欲しいものが明確になる瞬間が」
コクのある日本酒を飲んでいるときほど、さっぱりした白身魚や塩気が欲しくなる。この"差し引き"の感覚から、話は日本酒コースの設計論へ転がった。
「次に出そうと思ってる料理があるけど、まず一杯これを出して、これが欲しくなる体になってもらってから出す──"あ、欲しいものが出てきたな"みたいな設計で流れを考えるの、すごい楽しそうですよね。ライブのセトリを考えるのと同じ気がするんですよ。同じものを歌っても、順序によって盛り上がりとか立体感が変わってくる。そういう美学みたいなものが、日本酒を組む中にも絶対あるんだろうなって」
──アーティストとして、ライブを設計してきた人ならではの視点に、野崎さんも「そういうストーリー性はすごく重要」と大きく頷いた。
島根「友則」と、猫ラベルの一杯
流れはさらに西へ。野崎さんが取り出したのは、島根の「友則」純米吟醸 直汲み中取り無濾過生原酒(精米歩合55%)。米に種麹を振り、麹菌が米のデンプンをブドウ糖に変えていく──酒になる前の"米の甘さ"が、そのまま香りに現れたような一本だ。
🍶 この一杯、どうでした?
友則 純米吟醸 直汲み中取り無濾過生原酒(島根・精米歩合55%)
「え、何、香りが全然違う。何これ、米俵の匂いがする。炊いたばっかりのお米を崩した時の、ふわんって香りがします。……ポン菓子みたいな、あれぐらいの甘さがふわっとしてる感じ」
続いては、岡山の蔵「酒一筋」と野崎さんのお店の系列店がコラボしたオリジナル酒。ラベルには野崎さん自身が手描きした猫があしらわれている(猫好きで、現在も4匹と暮らしているそうだ)。もともと中国向けに造られ、300ミリリットルの小瓶で冷蔵熟成される予定が、出荷直前に全量キャンセルに。試飲したらあまりに出来が良く、店で買い取って一升瓶に詰め替えたという、数奇な経歴を持つ一本だ。
🍶 この一杯、どうでした?
日本酒愛一筋(酒一筋〈利守酒造〉×店舗コラボ/岡山・雄町100%)
「え、生酒って言われても信じるぐらいです」──5年寝ているとは思えない若々しさに、本人もびっくりしていた。
使われている米は、岡山が発祥の「雄町」100%。一度は絶滅の危機に瀕しながら、酒一筋の先代社長らの尽力で復活し、今や愛好家が「オマチスト」と呼ばれるまでになった米だ。米は土地を越えて旅ができる──ワインとの違いに、話はどこまでも広がっていく。
「国酒なのに、なんで知られてないんですか」
日本酒談義が止まらない安野さん、実は今年、日本酒の資格試験にも申し込んだという。
「無謀にも申し込みしちゃったんですよ。1か月ぐらいしか勉強できる期間がなくて、どうしようってなって──もっと飲みに行かなきゃ(笑)」
その勉強のなかで知った数字に、彼女は納得がいっていない。
「日本酒の国内で飲まれてるパーセントが、酒類トータルの中の4.6%っていうのを聞いて、"なんで?"って思ったんですよ。国酒じゃないですか。こんなに製法にもストーリーもロマンもあって、こんなに大昔から作られている歴史もあって、なぜそんなことになっているんだと理解ができないんです」
「アニメとか、日本のコンテンツとその生産者やクリエイターを守りましょうっていう流れが、この10年ぐらいであると思うんですけど、日本酒だって同じような位置づけの、日本が生んだコンテンツなわけだし、もっと大事にされていってほしい。……って思いながら、私はアニメ業界にいます」
作り手も飲み手も、もっと日本酒に誇りを持てるように──野崎さんと意気投合した談義は、日本酒の未来にまで及んだ。
TICKET
安野希世乃さんが出演する10/18(日)に行くなら
Day2通常 ¥4,980(10/18に2時間試飲し放題・全酒蔵ブースで試飲できます)。20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。

洞窟の熟成酒から、"カラメル"の一杯へ
ここからは野崎さんの案内で、熟成酒の世界へ。まず登場したのは、栃木の蔵「東力士」に造ってもらっている、かも蔵オリジナルの洞窟熟成酒。五百万石を使った山廃仕込みだ。戦時中に戦車の組み立て施設として掘られた洞窟を貯蔵庫に転用したもので、内部は一年を通じて10〜15度ほど。日光が入らず風が適度に通る、その場所でしか生まれない熟成が進む。古いものでは50年以上前の酒も眠っているという。
🍶 この一杯、どうでした?
東力士 洞窟熟成酒(かも蔵オリジナル)(島崎酒造/栃木・五百万石の山廃仕込み)
「うーん! これが洞窟の味。……じっくり、長時間かけて熟成したんだろうなっていう感じがありますね」
そして真打ちは、岐阜の熟成酒専門蔵・白木恒助商店の「達磨正宗 熟成三年」。琥珀色のグラスからはブランデーや紹興酒、シェリー酒を思わせる香りが立ちのぼる。
🍶 この一杯、どうでした?
達磨正宗 熟成三年(白木恒助商店/岐阜)
「なんだこれは! すごい、ブランデーみたいな。紹興酒もわかります。……甘い! 熟成って辛くなっちゃうイメージあったんですけど、全然角がないですね」
熟成酒はこれまであまり飲んでこなかったという安野さん。その先入観が、穏やかで上品な一杯にほどかれていく。野崎さんによれば、日本酒の熟成はアミノ酸と糖が結びつく「アミノカルボニル反応」で進み、アミノ酸のもとになるタンパク質は米の外側に多い。だから精米歩合40%まで磨いた大吟醸は寝かせても緩やかにしか変化せず、この酒はあえて磨きを70%にとどめ、常温で3年寝かせることで深い熟成をまとわせている。
「これ、お料理に使いたい」と身を乗り出すと、野崎さんからは、みりんの代わりに使えば料理が上品に仕上がり、バニラアイスにかければデザートが化けるという活用術も飛び出した。
この一杯の総括も、彼女らしかった。
「カラメルの感じがして、喉の奥でこっくり感じるんですよ。この辺っていうよりか、喉にコンってしっかりくる感じで。なんかすごいかっこいい熟成の仕方してる、っていう感想になります」
面白いのは、ここから安野さんの関心が「熟成×熟成」に向かったことだ。お寿司では熟成させたものが好き。でも、熟成寿司と熟成日本酒を合わせた経験はまだ少ない。寿司店で出てくるのは切れのある辛口が多いからだ。本マグロや熟成した魚介と熟成酒がぶつかったとき、どんな反応が生まれるのか──。この日はフグのしゃぶしゃぶを合わせながら、熟成談義はどこまでも続いた。
プロデュース酒第2弾、純米大吟醸「花時雨」
取材の終盤には、サプライズもあった。安野さんが持参した一本──彼女がプロデュースする日本酒の第2弾、純米大吟醸「花時雨」だ。
数年間続けた平孝酒造とのプロデュース(「稀世」)がひと区切りとなり、今年からは「黄金澤」で知られる川敬商店と組んだ新章である。蔵元もデザイナーも女性。ピンクのボトルに透明なラベル、白抜きの意匠が映える。
🍶 この一杯、どうでした?
純米大吟醸「花時雨」(川敬商店/宮城・精米歩合40%・安野さんプロデュース)
「全然角がないです。角のなさにびっくりした。丸くて柔らかくて、苦味が結構印象的なんですけど、フルーツで言うと和梨っていう感じで、本当に角のない甘さ」──テーブルからは、鑑評会出品酒クラスという評も飛び出した。
蔵元いわく、できたての今はまだ若く、1、2か月寝かせれば円熟味が出て味が着地するはず──夏を越した頃が楽しみな一本でもある。リリースの約1週間後には、川敬商店の銘柄「たちばなや」が、約1,100銘柄がエントリーするブラインド審査の酒コンペティション・モダンナチュラル部門で1位に輝くという追い風も吹いた。
ただしこの「花時雨」、手に入れるのが少々難しい。役場の企画でふるさと納税のために生まれた酒のため、基本は町内の酒屋だけの限定流通。ECで買えるのは最上商店のみという"幻"ぶりだ。それでも、と安野さんは笑う。
「知られてない1年目のお酒なので、まずは知ってもらうことから。……なんなら、お持ちします」
昨年から話を聞いて花時雨をチェックしていたという野崎さんも、強い興味を示していた。そしてこの取材が縁となり、かも蔵での「花時雨」の提供が始まることになった。安野さんのご縁でつながった一本を、神楽坂で味わえる。価格などの詳細は店舗にて確認してほしい。取材が、酒の縁をひとつ結んだ。
ちなみに自宅の日本酒セラーでは、ひとつの"事件"もあった。自宅で1度前後で管理していた酒より、10度ほどの事務所の冷蔵庫にあった酒の方が状態が良かったのだ。原因は温度ではなく「置き方」。自宅のセラーは瓶を横に寝かせるしかなく、横置きは酒と空気の接する面が増えてしまう。スクリューキャップの内側に酒が溜まって酸化しやすくなるという補足も入り、安野さんは縦置きできる細長いセラーへの買い替えを考えているという。好きだから集め、集めるから失敗し、失敗から学ぶ。ほろ酔いトラベラーは、家の中でも探究をやめない。
最後は試飲した酒と持参のボトルを並べて記念撮影。会話は酒の造りから料理、熟成、蔵の背景へと広がり続け、最後まで和やかなまま幕を閉じた。
「十年、百年続けてください」──3回目の超吟醸祭へ
料理に箸を伸ばしかけたところで、最後の質問。3回目の参加となる超吟醸祭への意気込みを聞くと、安野さんは少し考えてから、まっすぐに話し始めた。
「このイベントの意義みたいなものは、3回目の参加ですごく実感しているところで。こういうフェス的な、"みんな集合するよ"っていう祭典としての場があるのって、やっぱり大事だと思うんですよね。50人来ても、100人来ても大丈夫みたいな会場で、みんなで"日本酒美味しいね"って言い合える場所、コミュニケーションの場所を、しかも蔵元さんと会話もできる形で作れるって、日本酒業界にとってすごく意義が大きいことだと思います」
そして、自身の立ち位置についても。
「これからも声優としての軸足を持ちつつ、日本酒を一人でも多くの方に味わっていただける場を──究極、アニメとの掛け合わせでも、声優との掛け合わせでもいいんですけど──そういう"掛け合わせの場"を模索して広げていけたらいいなと。日頃も、今回のイベントに関わった中でも感じているところです」
フルーツ盛りの提案も、"移動酒室"の夢も、この日の8杯も、すべてはこの一点につながっている。日本酒と人の出会う場を、自分の持ち場から広げていく──診断の「ほろ酔いトラベラー」は、旅した先で人を巻き込むタイプらしい。
会場には全国の蔵元が集まり、150銘柄以上の吟醸酒がずらりと並ぶ。安野さんの出演は10月18日(日)第4部(11:30〜13:00)。蔵元とのトークを聞きながら、同じ酒を片手に楽しめる。チケットの種類と購入方法はこちらのガイド、イベントの全体像は超吟醸祭2026 公式ページへ。
最後は、彼女らしいエールで締めくくられた。
「超吟醸祭、めちゃめちゃ応援してます。十年、百年続けてください。──みんなも来てね、来てね」

この日いただいた銘柄リスト
| 銘柄 | 蔵元・産地 | メモ |
|---|---|---|
| 亀泉 CEL-24 純米吟醸 | 亀泉酒造(高知) | リンゴ酸系酵母のフルーティーな一本・精米歩合50% |
| 新政 頒布会「改良信交」 | 新政酒造(秋田) | 精米歩合60%・全量生酛・木桶仕込み |
| 新政 頒布会「亀の尾」 | 新政酒造(秋田) | 精米歩合80%の低精白 |
| 友則 純米吟醸 直汲み中取り無濾過生原酒 | 島根 | 精米歩合55%・米の甘い香り |
| 日本酒愛一筋 | 酒一筋(利守酒造)×店舗コラボ(岡山) | 雄町100%・5年熟成 |
| 東力士 洞窟熟成酒(かも蔵オリジナル) | 島崎酒造(栃木) | 五百万石・山廃仕込み・洞窟貯蔵 |
| 達磨正宗 熟成三年 | 白木恒助商店(岐阜) | 精米歩合70%・常温3年熟成 |
| 純米大吟醸「花時雨」 | 川敬商店(宮城) | 精米歩合40%・安野さんプロデュース |
イベント情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント名 | 超吟醸祭 powered by SIPORY |
| 開催日 | 2026年10月17日(土)・18日(日) |
| 会場 | 東京・浜松町 |
| 安野希世乃さん出演回 | 10月18日(日)第4部(11:30〜13:00) |
TICKET
安野希世乃さんが出演する10/18(日)に行くなら
Day2通常 ¥4,980(10/18に2時間試飲し放題・全酒蔵ブースで試飲できます)。20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。
よくある質問
安野希世乃さんの超吟醸祭2026の出演はいつですか?
2026年10月18日(日)第4部(11:30〜13:00)に出演します。超吟醸祭2026は10月17日(土)・18日(日)の2日間、東京・浜松町で開催されます。
安野希世乃さんのトークショーを観るにはどのチケットが必要ですか?
第4部のトークショー観覧席が付くプレミアムチケット第4部(7,980円)が必要です。トークショー観覧なしで試飲を楽しむ場合は、Day2チケット(4,980円)で入場できます。
超吟醸祭とはどんなイベントですか?
全国の蔵元が一堂に会し、150銘柄以上の吟醸酒を試飲できる日本酒イベントです。蔵元と直接話しながら飲めるのが特徴で、安野さんの参加は今回で3回目です。
安野希世乃さんがプロデュースする日本酒はありますか?
あります。プロデュース第2弾となる純米大吟醸「花時雨」(宮城・川敬商店)です。ふるさと納税のために生まれた限定流通の酒で、基本は町内の酒屋のみ、ECで購入できるのは最上商店のみです。また、本記事の取材が縁となり、神楽坂「地酒喝采 かも蔵」でも花時雨の提供が始まります。価格等は店舗にてご確認ください。
取材場所:地酒喝采 かも蔵(神楽坂)
取材に協力してくれたのは、神楽坂の「地酒喝采 かも蔵」。日本酒に造詣の深いオーナー・野崎さんが営む地酒の店だ。店名の「かも」は鴨ではなく、「醸」にさんずいを添えた造語──「醸す」に由来する。栃木「東力士」の洞窟熟成酒や、野崎さん手描きの猫ラベルをあしらったオリジナル酒など、ここでしか出会えない一杯が揃う。さらに本取材が縁となり、安野さんプロデュースの純米大吟醸「花時雨」の提供も始まる。価格等は店舗にて。
「花時雨」のお取り扱い開始にあたって、安野さんからメッセージが届いた。
このたび超吟醸祭のご縁で訪れた「かも蔵」さんにて、プロデュース酒「花時雨」を置いていただけることになりました!
本当に嬉しいです。
今年誕生したばかりの新しい日本酒なので、ぜひ色んな方に味わっていただきたいです。
お味は甘めで角がなく、色んなお食事に馴染むスッとクリアな酒質で、かも蔵さんの美味しいお料理と合わせて色んなシーンでお楽しみいただけると思っています。
ぜひ、花時雨を味見しにかも蔵さんを訪れてみてください♪
この日の料理も圧巻だった。神経締めの真鯛を使ったごまカルパッチョは、締めてから24時間ほど死後硬直が始まらないため、船上で食べるようなコリコリの食感。刺身の盛り合わせには生ダコ、カンパチ、カツオ、サワラ、ヤリイカ、きびなご、つぶ貝、そして冷凍をかけない近海の生本マグロまで並び、フグはあえてのしゃぶしゃぶで。コクのある熟成酒と、さっぱりした白身や塩気を行き来する"差し引き"のペアリングを堪能した。
地酒喝采 かも蔵(かもぞう) 住所:東京都新宿区岩戸町1 M's神楽坂 2F アクセス:都営大江戸線 牛込神楽坂駅 徒歩2分/東京メトロ東西線 神楽坂駅 徒歩4分/飯田橋駅 徒歩6分 営業時間:月〜金 17:00〜23:00/土 16:00〜22:00(日曜定休)
