神田明神納涼祭り2026と連動して2026年8月に発表された「VTuberコラボ日本酒」は、製造元と告知された酒蔵が「一切許諾していない」と公表し、9月11日に企画中止となり、SNSでもこれに関する意見や批判が飛び交った。

IPと聞くとキャラクターや作品を思い浮かべがちで、文化として根づいた日本酒の世界では、酒蔵の名前をIPとして捉える考え方は軽く見られやすい。しかし、酒蔵の名前や銘柄も同じIPである。他社のIPを使うなら、IP権者との契約と、使い方が相手に分かるコミュニケーションの2つが要る。本件では、酒蔵との間でその両方が欠けていた。

SIPORY編集部は、企画者・販売者・酒蔵の3者に書面で質問し、IP分野の弁護士にも話を聞いた。前半で事実を整理し、後半で、他社のIPを使うときに必要なことを編集部の見解として示す。

この記事の要点

■ 分かったこと:酒蔵の名前や銘柄も、キャラクターと同じIPである。他社のIPを使うには、①IP権者との契約と、②使用実態の分かるコミュニケーションの2つが要る。特約店を通した確認や再販売の許諾は、その代わりにならない(編集部の見解)。

■ 何が起きたか:8月5日発表の「VTuberコラボ日本酒」について、製造元とされた諸橋酒造が8月18日・9月3日に関与と許諾を否定。9月11日、企画者が中止を発表した。

■ 取材への対応:3者に計33問を送付。企画者は個別の回答を差し控え、販売者は回答せず、酒蔵は代理人弁護士が電話取材に応じた。

■ 一致点と空白:3者の説明が一致するのは「酒蔵の許諾はなかった」の一点だけ。企画者が窓口としたという特約店がどこか、酒蔵に何が伝わったのか、どの酒を売るはずだったのかは、明らかになっていない。

■ 弁護士の解説:問題になるのは、ラベルを付けることではなく、酒蔵の名前や銘柄名を使うこと。再販売の許諾があっても、コラボは別の許諾になりうる。

何が起きたのか(公表情報による時系列)

日付出来事
2026年8月5日飲食イベント団体「絶品グルメ屋台の会」が、神田明神納涼祭り2026と連動した「VTuberコラボ日本酒」を発表。新潟県長岡市の諸橋酒造株式会社が製造する清酒720mlに、VTuber18組の限定ラベルを付けた商品として告知した。価格は1本3,800円(税込)、アクリルコースター付きセット5,600円(税込)。
8月6日さいたま市の酒販店「ライスショップきよみや」(清宮商事)のECサイトで受注販売を開始(受注期間は10月6日までの予定)。発表文は「酒蔵・酒販店と連携した受注販売」「新潟県の酒蔵応援」を掲げていた。
8月18日諸橋酒造が公式サイトに「重要なお知らせ」を掲載。一切関係のない会社が無断で同社製造をうたった商品を販売している旨を告知した。
8月22日ライスショップきよみやが「諸事情により」新規受注を停止。受注済み分は「今後の対応を整理のうえ、対象のお客様へ改めてご案内」とした。
9月3日諸橋酒造が改めて公表。本企画を「一切許諾したことはなく、今後も許諾する意向はない」「商品を供給する予定もない」とし、弁護士に依頼して対応中であることを明らかにした。
9月上旬神田明神納涼祭り実行委員会が、本商品は出展団体の独自企画であり、祭りが確認・許可したのは境内でのプロモーションと名称・ロゴの使用に限られ、商品の企画・製造・販売や酒造会社との契約・許諾には関与していないと説明した。
9月6日SIPORY編集部が3者に書面の質問状を送付(回答期限 9月8日18時)。
9月8日諸橋酒造の代理人弁護士がSIPORYの電話取材に応じる。
9月11日絶品グルメ屋台の会が企画の中止を公式発表し、謝罪した(内容は後述)。

SIPORYの取材方法

企画側の発表と酒蔵側の公表は、企画への関与・許諾・商品供給について正反対だった。一方の主張だけで記事にしないため、編集部は9月6日、企画者(絶品グルメ屋台の会)、販売者(ライスショップきよみや)、酒蔵(諸橋酒造)の3者に、それぞれの立場に応じた質問状を書面で送り、同じ期限(9月8日18時)で回答を求めた。回答が難しい質問は差し控えてよいと添えた。

質問は企画者に12問、販売者に13問、酒蔵に8問。企画者には酒蔵への事前説明と許諾の有無や「酒蔵との連携」の実体を、販売者には酒の調達経路や限定ラベルの扱いを、酒蔵には事前相談の有無や本来必要な手続きを尋ねた。全問と回答状況は記事末尾の付録にまとめた。

宛先立場対応
絶品グルメ屋台の会企画者9月7日に猶予を求め、9月11日に企画中止の公式発表をもって回答とし、個別の回答は差し控えた。
ライスショップきよみや販売者質問状の受け取りは確認できたが、回答はなかった。
諸橋酒造株式会社酒蔵代理人弁護士が9月8日、電話取材に応じた。

酒蔵側の説明:「何の協力もしていない」

諸橋酒造の代理人弁護士は9月8日の電話取材で、本企画は「当社の全く預かり知らないもの」で、インターネット上に出ていたことで認識したと述べた。

「何の協力もしておりませんし、先方さんを全くこちらも事前に存じ上げてもおりませんし、協力依頼も何も来ていない中で、勝手にことが進んでいるというのが実態」

**事前の相談・説明・確認は一切なかったという。**販売者のライスショップきよみやについても、「少なくとも直近ではなく、取引先という認識はない」と答えた。

問題視している3点

代理人が挙げたのは、①同社の商品を販売しているという表示がなされていること、②同社が協力しているかのような誤解を与えること、③そもそも同社の商品かどうかすら分からないこと、の3点だ。

「当社が作ったお酒なのか、他のお酒をそのように偽って書いているのかすら分からない」

③は、公表された告知にはない指摘である。酒蔵は、自分の名前で売られようとしている酒が実際に何なのかを知る立場になかった。

同社は絶品グルメ屋台の会に販売中止を申し入れ、経緯の説明を求めているが、取材時点で「完全な回答はいただけていない状態」だった。交渉の見通しについては「交渉最中の話」として回答を控えた。

本来必要な手続き

第三者が酒蔵の酒を使ってIPとのコラボ商品を企画する場合に本来必要な手続きを尋ねると、代理人はこう答えた。

「当社内部でその事実を認識した上で、どういう内容のものをやるのかということを事前にご説明いただいた上で、当社の判断で応じるか否かを決定させていただくことが必要不可欠」

法的な評価については、代理人の立場で一般論を述べるのは難しいとしつつ、「基本的にはこちらの許諾をいただかないと認められないものだと思う」と述べ、表示や商標などさまざまな問題に抵触しうるとの見方を示した。

企画者側の説明:中止発表をもって回答

絶品グルメ屋台の会は9月7日、関係者が複数にわたり事実関係を整理中だとして9月11日までの猶予を求め、「回答可能な範囲について改めて回答させていただきます」としたが、9月11日18時22分には、同日の企画中止の公式発表をもって回答とし、「個別のご質問への回答につきましては、現時点では差し控えさせていただきます」と連絡が来た。

公式発表が説明していること

同会が「回答」と位置付けた9月11日の公式発表は、商品の選定について次のように記す。

「使用予定商品については、地元のコーディネーターを介して、新潟県内の酒販店に相談し、諸橋酒造株式会社様の特約店である同店の提案を受け、同社の商品を選定しました」

続けて、同店から「特約店である同店を企画・流通の窓口として介在させるよう指示があり」、その指示に従って確認・調整を進め、「商品化に向けた準備が進んでいるとの認識で企画を進めておりました」と述べる。そのうえで、こう結論づけた。

「結果として、特約店である同店を通じた確認・調整では、諸橋酒造株式会社様との間で、了解には至っていなかったことが判明したため、本商品の販売を取りやめ、本企画を中止することといたしました」

発表はほかに、次の点を説明している。

  • 諸橋酒造の代理人弁護士から説明を求められ、8月27日付の回答書で円満解決に向けた協議を申し入れた。そのため詳細な公表を控えていた
  • 商品は「製造・出荷には至っておらず、商品代金の入金および商品の引渡しも発生しておりません」。残る注文は取り消して順次案内する
  • 参加VTuberは同会が参加を依頼した立場で、「一切の責任はありません」
  • 神田明神と納涼祭りは、商品化に関する事項に「一切関与しておりません」
  • きよみやは「酒類販売業免許を有する」販売主体だが、「商品の選定および新潟側での確認・調整には関与しておりません」
  • 対外的な説明・対応の責任は同会にあり、問い合わせは同会へ

諸橋酒造、参加VTuber、関係者、購入者に対しては、「大変なご迷惑をお掛けしましたことを心よりお詫び申し上げます」と謝罪した。

**企画者の説明では、企画者と酒蔵の間に「地元のコーディネーター」と「新潟県内の特約店」という2つの介在者がいたことになる。**ただし、その特約店がどの事業者なのか、特約店が酒蔵に何を伝えていたのかは記されていない。

企画者の9月11日発表に基づく関係図。企画者はコーディネーター経由で新潟県内の特約店に相談し、特約店の提案と指示で確認・調整を進めたが、特約店と諸橋酒造の間で了解には至らなかった。きよみやは販売主体で選定と調整には不関与。想定されていた商流(酒蔵→特約店→きよみや)は実現しなかった。

図1:企画者の説明に基づく関係図。実線は企画者が説明した関係、点線は想定されていた商流。赤は酒蔵側の説明と食い違う地点。特約店の事業者名は非公表。

販売者側:回答なし

ライスショップきよみやからは、期日までに回答も、回答できない旨の連絡もなかった。

販売者への質問は、本件の核心に関わるものだった。諸橋酒造は商品を供給しないと公表していた一方、商品は10月下旬以降の発送予定で受注されていた。受注分の酒をどの経路で調達する計画だったのか。限定ラベルは誰が作り、どう付ける予定だったのか。酒蔵の許諾は、企画者と販売者のどちらが確かめる認識だったのか。これらは販売者にしか答えられないが、答えはなかった。

3者の説明を突き合わせる

一致している点は一つだけ。諸橋酒造の許諾はなかった。酒蔵は一貫してそう述べ、企画者も「了解には至っていなかった」と認めた。

「酒蔵との連携」とは何だったのか

発表文は「酒蔵・酒販店と連携した受注販売」をうたい、「新潟県の酒蔵応援」を掲げていた。しかし企画者の説明でも、酒蔵との接点は特約店を通じた間接的なもので、酒蔵に直接説明したとの記述はない。酒蔵は、事前の連絡は一切なかったと述べている。「酒蔵応援」を掲げた企画を、応援される酒蔵は知らなかったことになる。

説明の食い違いはどこで生じたのか

企画者は特約店を通じて確認・調整を進めたと言い、酒蔵は何も届いていないと言う。この食い違いを説明できる筋道として、編集部は次の3つを考える。

① 特約店が酒蔵に企画を伝えていなかった、あるいは伝え方が不十分だったが、企画者側には準備が進んでいると受け止められていた。

② 企画者と特約店の間に立った「地元のコーディネーター」の段階で、調整の内容や進捗が正しく伝わっていなかった。

③ 企画者が「特約店の指示」として説明している経緯そのものが、事実と異なる。

企画者から酒蔵までの連絡の鎖(企画者→コーディネーター→特約店→諸橋酒造)と、断絶がありえた3地点。①特約店と酒蔵の間、②コーディネーターの段階、③企画者の説明そのもの。

図2:企画者と酒蔵の説明の食い違いを説明できる3つの地点(編集部の整理)。

どれなのかは、特約店がどの事業者で、酒蔵に実際に連絡していたのかが分かれば大きく絞り込める。企画者はそれを公表しておらず、質問にも答えていない。

説明されていない点

企画者は個別の回答を差し控え、販売者は回答しなかった。そのため、次の点は分からないままである。

  • 「新潟県内の特約店」と「地元のコーディネーター」は誰で、特約店は酒蔵に何をどこまで伝えていたのか
  • 「酒蔵・酒販店と連携」「新潟県の酒蔵応援」と発表した時点で、企画者は酒蔵がこの企画を知らないことを認識していたのか
  • 祭りの名称を冠した商品について、酒蔵の許諾状況を神田明神側にどこまで説明していたのか
  • 8月18日の酒蔵の告知から、8月22日の受注停止、9月11日の中止発表まで、企画者と販売者は何をしていたのか
  • 企画者・特約店・販売者のうち、誰が酒を用意するはずだったのか

酒蔵が「当社の商品かどうかすら分からない」と述べたとおり、**この企画で売られようとしていた酒が何だったのかは、最後まで明らかになっていない。**関係者から回答があれば、本記事に追記する。

酒蔵や銘柄も「IP」である:弁護士に聞く

VTuberとのコラボ商品は、キャラクターというIPと、酒蔵・銘柄というIPを組み合わせた商品である。酒蔵や銘柄がIPとしてどう守られるのかを、IP分野を扱う弁護士法人GVA法律事務所の箕輪洵弁護士に聞いた。以下は本件の評価ではなく、同じような企画で一般に問題になりうる点の解説である。酒税法上の論点は対象外とした。

解説

GVA法律事務所
弁護士 箕輪洵

弁護士法人GVA法律事務所

弁護士 箕輪 洵

第一東京弁護士会所属

2015年より都内法律事務所にて上場企業から中小企業まで幅広く企業法務を経験し、2019年に弁護士法人GVA法律事務所に入所。2026年 同所パートナーに就任。

同所ではスタートアップ企業を中心に、上場企業から中小企業まで企業法務を幅広く対応。また、メタバース/エンターテインメントチームを立ち上げ、同チームのリーダーとして活動。

箕輪弁護士のプロフィール →GVA法律事務所のサイト →

箕輪弁護士によれば、問題になりうるのは大きく3つ。商標法、不正競争防止法、そして酒蔵との契約(許諾の範囲)である。

1. 商標法:酒蔵名・銘柄名は商標として守られる

酒蔵の社名や銘柄名が商標登録されている場合、他社の商品に新たなラベルを付け、そこで酒蔵の名前や銘柄名を使う行為は、原則として商標権の侵害になる。酒蔵と無関係の名前を付けて売るだけなら、商標の問題にはならない。問題になるのはラベルを付けることではなく、他社のIPである酒蔵の名前や銘柄名を使うことだ。

契約で使用を認めていない限り、酒販店や特約店との力関係で酒蔵の立場が弱くても、酒蔵は商標権に基づいて使用をやめるよう求められる。

2. 不正競争防止法:商標がなくても、広く知られた名前は守られる

商標登録をしていない名前は、不正競争防止法で守られる場合がある。ただし対象は一般に広く知られた名前で、あまり知られていない銘柄では主張が難しくなる。商標登録をしていれば、知名度はあまり関係しない。

3. 契約:「売ってよい」と「コラボしてよい」は別の許諾

酒蔵から再販売の許諾を得ていても、第三者とのコラボ商品として売ってよいとは限らない。契約から「第三者とのコラボも自由」と読み取れれば商標や不正競争の問題は生じないが、読み取れなければ許諾の範囲を超えたものとして問題になりうる。

「合理的な範囲で使ってよい」といった書き方では、何が合理的かで双方の認識がずれることがある。最終的には裁判所が、事前にそうした話をしていたか、同じようなコラボが一般に行われているか、といった事情を踏まえて判断するという。

契約で決めておくこと

弁護士が挙げたのは、許諾を明示的に得ることだ。契約で決めておく主な項目は次のとおり。

決めること内容
コラボ相手「第三者とのコラボも自由」とするか、コラボするIPを具体的に挙げるか。相手を選びたい酒蔵なら後者になる
使用料必須ではなく、無償の許諾もある
地域・期間・用途日本国内か全世界か、いつからいつまでか、特定のイベントに限るのか
イメージへの影響コラボ相手の炎上や、日本酒のイメージ低下について、誰が責任を負うのか

関わる当事者が3者以上でも、3者で1本の契約を結ぶ必要は必ずしもない。企画をまとめる者が、酒蔵・IPそれぞれと2者間で契約すれば足りる。ただし、何と何を組み合わせてどんな商品にするのかという完成形は、全員で共有しておく必要がある。

契約だけでは足りない

弁護士が繰り返し強調したのは、契約さえ整えればよいわけではないという点だ。日本酒のようにイメージが大切な商品で、IPとのコラボのようにイメージに直結することをするなら、法的な問題とは別に、事前にすり合わせておくべきだという。

「コラボの趣旨を丁寧にご説明いただいた上で、コラボ先のIPはどのようなものか、具体的にどのような素材を利用するかといった点を事前にすり合わせた上で、許諾を得るという対応が重要」

説明して断られたり、使用料を求められたりすれば、受け入れるか、その酒蔵とのコラボを諦めるかを判断すればよい。正式な契約書まで交わさなくても、許諾する旨の一筆をもらっておけば法的なリスクは抑えられる。法的な許諾と事前のコミュニケーションの両方がそろって初めてうまくいき、どちらかが欠ければトラブルになる、という整理に、弁護士も同意した。

他社IPの利用時に気を付けたいことは「契約」と「コミュニケーション」

ここからは、取材で確認した事実と弁護士の解説をもとにした編集部の見解である。

酒蔵の名前や銘柄も、キャラクターと同じIPである。他社のIPを使ってコラボ商品を作るなら、次の2つが要る。

① IP権者との契約:IPを持つ本人から、使う範囲を明示した許諾を得る。

② 使用実態の分かるコミュニケーション:何に、どう使い、どんな商品になるのかを、IP権者が分かる形で伝え、すり合わせる。

「文化」だからこそ、IPとして考える

日本酒は、長い歴史の中で暮らしに根づいてきた文化である。酒蔵と特約店の関係も、代々の信頼の上に成り立っていることが多い。信頼があるぶん、取り決めが古い契約書のままだったり、慣習で済まされていたりすることも少なくないとみられる。昔ながらの取引が多い業界では、第三者とのコラボの扱いまで契約書で細かく定めている例は少ないだろう。

そうした世界では、「付き合いのある特約店を通しているから大丈夫」「名前を出すくらいは問題ない」と考えてしまいがちだ。しかし、そんなことはない。酒蔵の名前や銘柄は、何代にもわたって積み上げてきた信用そのものである。取り決めが古く曖昧でも、使用を認めた契約がなければ、商標権は酒蔵自身の権利として働く。文化として根づいているからこそ、その名前を使うときに、IPとしての手順を省いてはいけない。

① IP権者との契約

IPを使う許諾は、そのIPを持つ本人から得る。キャラクターならその権利者、酒蔵の名前や銘柄なら酒蔵である。

本件の企画者は、参加VTuberには参加を依頼していたと説明している。一方、もう一つのIPである酒蔵の名前については、許諾を得ていなかった。キャラクターの側とは話をしながら、酒蔵の名前はIPとして扱われていなかったことになる。

企画者の説明では、確認は「地元のコーディネーター」と「特約店」を介した間接的なものだった。しかし、特約店は原則として商品を仕入れて売る立場であり、酒蔵に代わってその名前の使用を許諾できる立場ではない。再販売の許諾も、コラボの許諾にはならない。仲介者の言葉や「準備が進んでいるとの認識」は、IP権者との契約の代わりにならない。

② 使用実態の分かるコミュニケーション

契約があっても、IP権者が実際の使われ方を知らなければトラブルになる。どの酒に、どんなラベルで、誰と組み、どこで、どう売るのか。完成形をIP権者と共有しておく必要がある。

酒蔵の代理人が示した「企画を知り、内容の説明を受け、応じるかどうかを自ら決める」という手続きは、まさにこのコミュニケーションである。本件の酒蔵は、自分の名前で何が売られようとしているのかを知りえない立場に置かれていた。

祭りの名前にも同じことが言える。実行委員会が確認・許可したのは、境内でのプロモーションと名称・ロゴの使用だった。名前を使う許可はあっても、その名前が付く商品の実態までは共有されていなかった可能性がある。許可を取ることと、使い方を相手に分かる形で伝えることは、別の手順である。

教訓

  1. 許諾は、権利を持つ本人から得る。 仲介者を何人通しても、許諾を出せるのは権利者だけである。誰が、いつ、どの権利者から、何について許諾を得たのかを説明できないうちは、許諾を得たとはいえない。
  2. 「売ってよい」と「名前を使ってよい」は別のことである。 商品を仕入れて売れる立場にあっても、その名前を掲げて別の商品をつくれるわけではない。再販売の許諾は、コラボの許諾にはならない。
  3. 名前を出す相手には、発表の前に完成形を見せる。 名前を使う許可を得ることと、どう使うのかを相手に伝えることは、別の手順である。告知文と商品の完成形を事前に見せ、了解を得ておく。
  4. 売る側も、許諾の根拠を自ら確かめる。 販売を引き受ける者は、商品の表示にも責任を負う。企画した側の説明をうのみにせず、受注を始める前に、権利者の許諾があることを確かめておく。
  5. 名前を持つ側も、備えておく。 商標登録や、第三者による利用の扱いを定めた取り決めがあれば、無断で使われたときに中止を求める根拠になる。古い契約書や口約束のままの取り決めは、見直す価値がある。
  6. 説明の責任を引き受けたら、問われたことに答える。 説明が遅れるほど、責任のない関係者にまで影響が広がる。交渉中で語りにくい事情があっても、事実確認の問いには答えることが求められる。

取材の経緯について

本記事は、2026年9月6日に3者へ送付した書面質問状とその回答、取材記録、公表情報、および解説弁護士への取材に基づく。事実関係は、特に断りのない限り2026年9月12日時点のものである。新たな回答や説明があれば追記し、後半の見解も、事実の確認状況が変われば見直す。

SIPORYも日本酒イベントを主催し、酒蔵の名前や商品を掲げた企画を手がけ、記事で酒蔵を紹介している。本稿の教訓は、編集部自身への戒めでもある。

利益相反について:SIPORYは日本酒イベントを主催・運営しており、日本酒の催しを開く絶品グルメ屋台の会とは同じ分野の事業者にあたる。本稿では、確認できた事実と編集部の見解を分けて書いた。誤りがあれば、指摘を受けて訂正する。

付録:3者への質問状と回答状況

編集部が9月6日に送付した質問状の要旨と、回答の状況を宛先ごとに示す。○は回答あり、△は公式発表または口頭で一部触れている、×は回答なし。

企画者(絶品グルメ屋台の会)への12問

Q質問の要旨状況
Q1誰が発案し、どのような経緯で企画されたのか△ 発表で一部言及
企画の位置づけのみ
Q2諸橋酒造の酒を採用した経緯と、商品を選定した主体△ 発表で一部言及
コーディネーター経由で特約店が提案
Q3発表・販売開始前に諸橋酒造へ説明・相談・確認を行ったか(時期・方法・相手方)× 回答なし
Q4諸橋酒造から許諾を得ていたとの認識か。得ていたならその対象と方法× 回答なし
Q5発表文の「酒蔵との連携」とは、どの事業者との、どのような連携か△ 発表で一部言及
特約店を窓口とした確認・調整
Q6「新潟県の酒蔵応援」の「酒蔵」に諸橋酒造は含まれていたか× 回答なし
Q7「VTuberコラボ日本酒」は誰と誰のコラボと位置付けていたか× 回答なし
Q8仕入れ・限定ラベルの制作と貼付・保管・発送の役割分担△ 発表で一部言及
販売主体はきよみや。他は不明
Q9諸橋酒造の8月18日・9月3日の発表に対する認識× 回答なし
Q108月18日の発表をいつ把握し、どう対応したか× 回答なし
Q11問題または改善すべき点があったと認識している部分× 回答なし
Q12その他、説明しておきたい事実関係× 回答なし

9月11日、「公式発表内容をもって回答」とし、個別の回答は差し控え。△は公式発表の記述から読み取れる範囲で、質問状への直接の回答ではない。

販売者(ライスショップきよみや)への13問

Q質問の要旨状況
Q1販売に参加することになった経緯× 回答なし
Q2諸橋酒造製造の酒を、どの商流で調達する予定だったか(仕入先・調達方法)× 回答なし
販売者にしか答えられない
Q3諸橋酒造との直接の取引関係の有無、今回の商品を直接発注した事実の有無× 回答なし
Q4酒蔵が「供給しない」と公表する中、受注分の商品をどう確保する計画だったか× 回答なし
販売者にしか答えられない
Q5限定ラベルは誰が制作し、誰が商品への貼付等の作業を行う予定だったか。元のラベルをどう扱う予定だったか× 回答なし
販売者にしか答えられない
Q6限定ラベル仕様について、諸橋酒造への事前確認・許諾は行われたか× 回答なし
Q7酒蔵への説明・確認・許諾は、企画者と販売者のどちらが担当する認識だったか× 回答なし
Q8企画者から「諸橋酒造は了承している」との説明を受けていたか。その内容× 回答なし
Q9プレスリリースと商品ページの文章は誰が作成し、販売者はどこまで確認・承認したか× 回答なし
Q10諸橋酒造の「一切許諾したことはない」との発表に対する販売者としての認識× 回答なし
Q118月18日の発表をいつ把握し、どう対応したか× 回答なし
Q12受注済みの商品と購入者への現在の対応× 回答なし
Q13その他、説明しておきたい事実関係× 回答なし

質問状の受け取りは確認できたが、期日までに回答も連絡もなかった。

酒蔵(諸橋酒造)への8問

Q質問の要旨状況
Q1企画の存在を最初に把握した時期と経緯○ 回答
ネット上で認識。時期の言及なし
Q2発表前に関係者から相談・説明・確認を受けた事実の有無○ 回答
一切なし
Q3商品の供給・発注・協議の事実もないという理解でよいか○ 回答
その理解でよい。販売者との取引もない
Q4特に問題視している点○ 回答
3点(本文参照)
Q5通常販売と「コラボ商品」として販売することの違い△ 一般論は回答困難
許諾なしには認められないとの見解のみ
Q6第三者がIPコラボ商品を企画する場合に本来必要な手続き○ 回答
酒蔵が認識し、説明を受け、自ら判断
Q7今後コラボを企画する事業者・酒販店へ伝えたいこと× 直接の回答なし
Q8その他、公表済みの告知に加えて説明しておきたい事実関係○ 回答
販売中止の申し入れと経緯説明の要求。交渉中の事項は差し控え

代理人弁護士が9月8日の電話取材で回答。書面回答ではなく口頭回答の編集部整理。