全国の酒蔵141蔵に聞いた「イベント出展のリアル」。日本酒イベントはかつてない活況を見せる一方で、出展する蔵元の多くが「費用倒れ」「売上につながらない」という手応えのなさを抱えていることが、SIPORYの調査で明らかになりました。いま問われているのは、酒蔵・ユーザー・主催運営の"三方良し"となるイベントの設計ではないでしょうか。
調査の概要
日本酒専門メディア「SIPORY(シポリー)」は、全国の酒蔵を対象に「全国酒蔵イベント出展実態調査2026」を実施しました。回答したのは、日々イベント出展に取り組む現場の担い手である蔵元・蔵人です。調査の概要は以下のとおりです。
- 調査名:全国酒蔵イベント出展実態調査2026
- 調査主体:SIPORY(シポリー/日本酒専門メディア・日本酒イベント企画)
- 調査対象:全国の酒蔵(蔵元・蔵人)
- 調査方法:メール配信によるWebアンケート(無記名で集計)
- 調査期間:2026年7月(継続実施中)
- 有効回答数:141蔵(39都道府県/回答率 約12%)
なお、本記事は2026年7月時点の集計にもとづきます。回答は統計的に集計し、個別の酒蔵名を公開することはありません。複数選択の設問は、各回答者が複数を選べるため合計が100%を超えます。
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8割超が年5回以上出展。日本酒イベントは「飽和」の域に
まず見えてきたのは、出展の"多さ"です。過去1年間の出展回数は「10回以上」が56.0%、「5〜9回」が27.0%。8割超(83.0%)の蔵が、年5回以上イベントに出展していました。出展したイベントの種類も、日本酒専門イベント(83.0%)を筆頭に、地域イベント・祭り(73.0%)、酒販店イベント(71.6%)、飲食店イベント(70.9%)と多岐にわたります。

自由記述でも「酒造期を外れたら毎週のように何かしらのイベントが開催されて飽和している」「よく似たイベントが多くなってきているので、特色が強いものを期待したい」という声が複数寄せられ、"数の増加"を実感する蔵元は少なくありません。
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出展の目的は「認知」と「新規ファン」。直接の売上ではない
蔵元がイベントに出る目的は明確でした。「認知向上」85.8%、「新規ファン獲得」78.7%が突出し、「売上向上」は48.9%にとどまります。多くの蔵にとってイベントは、"その場で売る場"というより**"知ってもらい、ファンになってもらう場"**という位置づけであることがうかがえます。

最大の課題は「出展費用」72%、そして「売上につながらない」57%
一方で、課題は深刻でした。イベント出展の課題として最も多かったのは「出展費用」で72.3%。次いで「売上につながらない」56.7%、「人員不足」41.8%、「効果測定が難しい」41.8%と続きます。出展先を選ぶ際に重視する点でも「出展費用」(58.2%)が最多で、コスト感度の高さが表れています。

数字の裏側にある実感は、自由記述に色濃くにじみます。
イベント単体でみたときに、ほとんどの場合は蔵の収支はマイナスを強いられている。後日の売れ行きと照らし合わせてみても、結局は収支マイナスと評価せざるを得ないことがほとんど。
イベントそのもので蔵元が赤字になるものには、基本的には参加できません。イベントを広報として考えることは、もうできない時代になっています。
旅費の捻出が難しいので、イベント主催者に負担してもらいたい。
出展料に加え、休日出勤の人件費や旅費が蔵の"持ち出し"になりやすく、費用対効果が見合わない――そんな声が目立ちました。
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現場に共通する悩み──「盛況なのに、その後の消費につながらない」
課題の根っこにあるのは、**「イベントは盛り上がる。しかし、その後の日常の消費につながらない」**という手応えのなさです。この点は、自由記述で最も多く語られたテーマでした。
前向きな感想はいただくが、その後の消費にどう繋がっているのか、そもそも繋がっているのかが分からない。
来場者が「多種多様な酒を飲んで楽しかった」で終わることが多く、その後の酒販店や蔵元の売上向上につながっていない。
イベントを継続するほど来場者が固定客になり、常に新規来場者を獲得することが難しい。特に、将来のある若年層に響くイベントが難しい。
「顔ぶれの固定化」「新規・若年層に広がらない」「イベント後の継続消費が見えない」。活況の裏で、蔵元はこうした構造的な課題に直面しています。
深掘りしたい人へ
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「出ないと、始まらない」──蔵が抜け出せないジレンマ
見過ごせないのは、多くの蔵が**"出ないわけにもいかない"というジレンマ**を抱えている点です。出展の主な目的は「認知向上」85.8%・「新規ファン獲得」78.7%で、そもそも直接の売上を第一には置いていません。ところが現実には「売上につながらない」56.7%が課題の上位に並びます。
つまり――その日の売上は見込みにくい。それでも、出なければ認知も、将来の売上の芽も生まれない。 多くの蔵がそう考えて、収支の合わないイベントにも足を運んでいるのです。
売上に結びつかないと出展は厳しいと思うものの、ファンの掘り起こしは簡単に効果測定ができるものではなく、どのイベントに出て、どのイベントを見送るかの見極めが難しい。
認知のために出続けるが、その効果は測りにくく、やめる判断もつかない。出口の見えないトンネルに入り込んでいる――この構造こそが、蔵の疲弊の根っこにあります。
蔵が次に求めるもの──商談・新規客・若年層
では、蔵元は今後どんな機会を求めているのでしょうか。今後参加したいイベント形式は「酒販店向け商談会」53.9%、「飲食店向け商談会」50.4%と、商談につながる場への期待が上位に来ました。今後強化したい取り組みでも「酒販店開拓」55.3%、「海外展開」54.6%、「飲食店開拓」46.8%が並びます。
消費者向けイベントに期待することとしては「新たな客層の開拓」67.4%、「ブランド認知向上」63.1%、「若年層との接点」41.8%が上位。"いつもの日本酒ファン"の先にいる新しい客層との接点を、多くの蔵が求めていることがわかります。
迷ったら3択
いま気になっているのは — ①好みを知る · ②毎月届く · ③試飲する。
いま問われているのは「三方良し」のイベント設計
今回寄せられた声を並べると、課題は特定の誰かの落ち度ではなく、イベントを取り巻く三者――酒蔵・来場者(ユーザー)・主催運営――の関係の設計そのものにあることが見えてきます。
- 酒蔵にとっては、出展料や人件費・旅費の"持ち出し"に見合う成果(その後の販売・商談・継続消費)が残るか。「イベントを広報として考えることは、もうできない時代」という声は重く受け止める必要があります。
- 来場者(ユーザー)にとっては、"その日楽しかった"で終わらず、新しい銘柄や造り手との出会いが日常の一杯につながるか。「顔ぶれが固定化し、若年層に広がらない」という指摘も、来場体験の設計に関わる問題です。
- 主催運営にとっては、蔵に負担を求めるだけでなく、蔵が持ち帰れる"お土産"をどう設計するかが問われます。その本質は、「その日、ただ消費されて終わる」イベントから、価値が後に残る"持続可能な"イベントへ転換できるかどうかにあります。「無償提供した試飲酒がひたすら消費されるだけのイベントが散見される」という声は、その裏返しです。具体的な"お土産"とは、(1)商談機会(今後参加したい形式でも商談会が上位)、(2)その日の売上、(3)来場者の認知を"推し"=継続的なファンに変える仕組み――このいずれかが後に残る設計。「主催者も蔵元もWin-Winになるイベントなら、積極的に出展したい」という声は、設計次第で蔵がまた出たくなることを示しています。
蔵が抜け出せない"出口の見えないトンネル"に、出口を用意できるのは、場を設計する主催運営の側です。日本酒イベントは、数のうえではすでに成熟しました。だからこそ、いま一度立ち止まり、酒蔵・ユーザー・主催運営の"三方良し"となるイベント設計を問い直す時期に来ているのではないでしょうか。「その日の盛り上がり」を、蔵の次の一杯と、来場者の次の一本にどうつなげていくか――。その問いに向き合うことが、これからの日本酒イベントの価値を左右していくはずです。
SIPORYは、日本酒専門メディアの運営と日本酒イベントの企画を通じて、酒蔵・ユーザー・主催運営の三者がともに続いていくイベントのかたちを模索してまいります。
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ひとつの試みとして──「超吟醸祭」の設計
最後に、私たち自身の取り組みにも触れさせてください。SIPORYが主催する日本酒イベント「超吟醸祭」は、まさにこの"三方良し"を設計から考えているイベントです。
- 酒蔵にとって――出展料を求めません。お酒は「協賛」というかたちでご提供いただき、当日は会場での販売も可能。持ち出しの負担を抑えつつ、"その日の売上"を持ち帰っていただけます。さらに、ゲストを招いた対談形式のトークショーで造り手や銘柄と来場者を"推し"としてつなぎ、当日の熱量を継続的なファンづくりへ――つまり「認知を推しに変える」お土産づくりに取り組みます。
- 来場者(ユーザー)にとって――飲み放題で、その場での追加課金(アップセル)を前提にしません。「ただ消費させる」構造から距離を置き、一杯とじっくり向き合える場をめざしています。
- 主催運営は、収益をイベント単体の売上に依存させません。 SIPORYのサブスク会員を増やすことで運営を支え、将来的に蔵とユーザー双方の負担を下げていく――そんな持続可能な運営モデルを試みています。
これがクリティカルな解になっているかは、正直まだ分かりません。それでも、酒蔵・ユーザー・主催運営の三者が、少しずつでも"三方良し"に近づく方向を向いている――そう信じて設計しています。日本酒イベントの「その先」を、私たちも現場で探し続けます。
なお、全設問のグラフや現場の声をまとめた詳細版レポートは、こちらで公開しています(SIPORYサブスク会員・本調査にご回答いただいた酒蔵さま限定)。
本調査は継続中です。 全国の酒蔵さまからの回答を引き続き受け付けています。ご協力いただける酒蔵さまはこちらのフォームよりご登録ください。集計後の調査レポートをお送りします。
本調査データの引用・転載について:本調査は、日本酒専門メディア SIPORY が独自に実施した一次調査です。調査結果を引用・転載いただく際は、出典として「SIPORY『全国酒蔵イベント出展実態調査2026』」を明記し、本記事へのリンクを付していただけますようお願いいたします。報道関係者の方で図版や詳細データをご希望の場合は、お問い合わせください。
よくある質問
日本酒の酒蔵は年間どのくらいイベントに出展していますか?
SIPORYの「全国酒蔵イベント出展実態調査2026」(有効回答141蔵)では、過去1年間の出展回数が「10回以上」56.0%、「5〜9回」27.0%で、8割超の蔵が年5回以上出展していました。出展先は日本酒専門イベント(83.0%)、地域イベント・祭り(73.0%)、酒販店イベント(71.6%)が上位です。
酒蔵がイベント出展で感じている課題は何ですか?
最も多いのは「出展費用」で72.3%、次いで「売上につながらない」56.7%、「人員不足」「効果測定が難しい」がともに41.8%でした。出展の主目的は「認知向上」85.8%・「新規ファン獲得」78.7%で、その日の直接売上を第一には置いていないことも背景にあります。
「三方良し」の日本酒イベントとはどういう意味ですか?
酒蔵・来場者(ユーザー)・主催運営の三者がともに続けられるイベント設計を指します。本調査では、盛況でも蔵の売上や継続的な消費につながりにくい構造が課題として浮かび、その日ただ消費されて終わらない「持続可能な設計」への転換が求められていることが分かりました。
この調査の対象・方法を教えてください。
日本酒専門メディアSIPORYが、全国の酒蔵(蔵元・蔵人)を対象に、メール配信によるWebアンケート(無記名集計)で実施しました。2026年7月時点の有効回答は39都道府県・141蔵、回答率は約12%です(調査は継続中)。
調査結果の詳しいデータはどこで見られますか?
全設問のグラフや自由記述を収録した詳細版レポートを公開しています(SIPORYサブスク会員・本調査にご回答いただいた酒蔵さま限定)。本記事内のリンクからアクセスいただけます。
